2016/06/15
誌面情報 vol55
年金機構の情報漏えい事案から学ぶ
東京電機大学教授 佐々木良一氏
サイバー攻撃の被害は増えている。例えばインターネットバンキングの被害は2013年に14億円だったのが2015年には30億円になった。最初のターゲットは都銀や地銀だったが、これらの銀行が被害を受けて対策を進めたので、現状では信金などの組織での被害が増えてきている。
サイバー攻撃にはこれまでに2つのターニングポイントがあった。1つは2000年頃に科学技術庁などのホームページが改ざんされたとき。一般の人もサイバー攻撃を意識しはじめたのがこのころ。2001年には電子署名法がスタートした。
2つ目のターニングポイントは2012年ころ。典型的な例はMicrosoftWindowsで動作するワームであるStuxnetの出現になる。この2つの時代を比べると何が変わったかわかる。以前はハッカーが実力を示すため面白半分でやっていたが、今ではスパイや軍人、犯罪者などが参加するようになった。攻撃対象もホームページなどウェブサイトの書き換え程度だったものが重要インフラに変わり、不特定多数を狙ったものではなくターゲットを絞った標的型になった。Stuxnetは米国とイスラエルが協力して開発したと言われるマルウェアで、イランの核燃料製造用の遠心分離機を破壊した有名なウイルス。WindowsのPCからPCに感染し、普段は何もしないが、遠心分離機の回転を制御するソフトを見つけると動き出す。
イランの核燃料製造施設はネットワークにつながっていなかった。それでも攻撃された。それはUSBメモリを介して従業員のPCに侵入して感染が広がったからだ。
日本年金機構への攻撃
日本年金機構への標的攻撃は2015年5月8日にメールが届き、職員がURLをクリックして始まった。
メールの送付先は日本年金機構九州支部の職員だった。感染がなぜわかったのか。日本年金機構のネットワークを監視している内閣サイバーセキュリティセンターが検知した。そして厚生労働省を経由して日本年金機構に伝えられた。5月8日のメールは巧妙で、添付ファイルにウイルスが仕込まれているわかりやすいものではない。不審メールの件名は「厚生年金基金制度の見直しについて(試案)に関する意見」でリンク先は商用オンラインストレージだった。そしてこのURLをクリックした。内閣サイバーセキュリティセンターが検知して、全職員に注意喚起があった5月18日、複数の部署に「給付研究委員会オープンセミナーのご案内」という不審メールが届いた。これを1名が開封した。5月19日の段階で警視庁が捜査を開始したが、5月21~23日にかけて大量の情報が漏れた。
誌面情報 vol55の他の記事
- セキュリティとレジリエンシーの融合
- サイバー攻撃の正体
- 止める判断が求められる 企業のBCPにおける自然災害とサイバーリスク
- 年金機構の情報漏えい事案から学ぶ サイバー攻撃最悪のシナリオ
- IT-BCPの発展と課題
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/26
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方