2016/04/28
スーパー豪雨にどう備える?
BCP・保険が明暗を分けた
鬼怒川が決壊した常総市の多くの企業が苦境に立たされている。決壊現場近くの本石下地区にある大型スーパー「アピタ石下店」は12月6日に閉店することを発表した。市商工会の会員1700社のうち、浸水した鬼怒川東側に立地するのは約1000社にのぼる。被害の全容はまだ明らかになっていないが、設備機器がすべて水没し数千万円の被害を出している企業もあるという。一方で被害を出しながらも、事業を早期に復旧した会社もある。BCPを策定していたことや、火災保険で水災特約に入っていたことが奏功した。
電話が通じない際の対応を決めていた
常総市役所から数百メートル離れた水海道(みつかいどう)渕頭町にある半導体素子の研磨加工メーカーの株式会社アトックは、本社である事務所が50㎝以上浸水する被害に見舞われた。生産工場は福島県岩瀬郡にあるため生産活動への直接的な被害はなかったが、本社が被災したことで、事務や営業の業務が1週間から2週間にかけ中断した。
茨城県では、商工労働部が県内中小企業のBCP策定を支援する事業を2012年から行っているが、同社も2014年にこの事業に参加し、BCPを策定した。地震を想定し、社会インフラ(電気、固定電話、公共交通機関)の停止、従業員の出社困難、設備・機器の損傷、社内インフラの損害などの事態に陥った時にも、14日以内に70%のサービスが提供できるようにすることを目標に設定。携帯電話番号・メールによる従業員の緊急連絡網の構築、徒歩出社可能な従業員による緊急対応体制の構築、設備・機械の自社診断・修復技術の強化と協力会社の連携、サーバーのバックアップなどの準備を進めていた。

取締役専務の青木大氏は「生産工場である福島工場が災害時でも機能できるようにとBCPを策定しました。本社の水害は正直なところ想定していませんでしたが、私自身この地で生まれ育ったこともあり、この辺に水害のリスクがあることは分かっていました」と話す。
水海道は、平成の大合併で、結城郡石下町を編入し常総市と改称した。常総市の名前からは、水との縁は感じられないが、江戸時代後期には「鬼怒川の水は尽きるとも、その富は尽くることなし」と称されるほど、鬼怒川の河川水運によって周辺地域の中核都市として発展してきた土地である。
同社の隣には、社長である青木氏の両親の家が、その隣には祖母が住む家がある。祖母の家には約70年前に鬼怒川が決壊した時の浸水の跡がまだ残っている。青木氏はそんな昔の洪水の話を祖母から聞かされて育ってきた。
会社は、鬼怒川から1㎞、小貝川から数100m、さらに両河川の間を流れる八間堀(はちけんぼり)川からも数100mの場所に位置する。
「決壊の前日から、経験したことがないようなものすごい雨が降っていたので、心配はしていました」(青木氏)。
スーパー豪雨にどう備える?の他の記事
おすすめ記事
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。今回、石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年「いま」に寄り添う <西宮市>
西宮震災記念碑公園では、犠牲者追悼之碑を前に手を合わせる人たちが続いていた。ときおり吹き付ける風と小雨の合間に青空が顔をのぞかせる寒空であっても、名前の刻まれた銘板を訪ねる人は、途切れることはなかった。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年語り継ぐ あの日
阪神・淡路大震災で、神戸市に次ぐ甚大な被害が発生した西宮市。1146人が亡くなり、6386人が負傷。6万棟以上の家屋が倒壊した。現在、兵庫県消防設備保守協会で事務局次長を務める長畑武司氏は、西宮市消防局に務め北夙川消防分署で小隊長として消火活動や救助活動に奔走したひとり。当時の経験と自衛消防組織に求めるものを聞いた。
2025/02/19
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/02/18
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方