2015/05/29
防災・危機管理ニュース
トップの“暴走”を誰も止められず
経営陣の編集への「過剰な介入」がかえって危機を拡大
寄稿 メディア研究家/早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員 井坂公明
1982年に端を発する朝日新聞の慰安婦誤報問題は、2014年8月に至って火を噴き、読者の信頼失墜、部数の激減など大きなダメージを同紙にもたらした。32年間も誤報記事を取り消さなかったこと、14年8月5日の記事取り消しの際謝罪をしなかったこと、謝罪の必要性を指摘したジャーナリスト・池上彰氏のコラムの掲載を拒否したことなど、経営陣の対応には判断ミスが目立つ。浮かび上がってくる危機管理のポイントは、一般企業にも共通するトップの資質の問題とトップの“暴走”を誰も止められなかった社内体質、新聞社に特有な「経営と編集の分離」の問題などだ。社外の有識者で構成する慰安婦報道を検証する第三者委員会が14年12月22日に公表した報告書(以下「報告書」という)などを基に、この事例をメディアにおける危機管理のケーススタディとして考察した。
1. 慰安婦誤報問題とは
朝日新聞は82年9月2日付紙面で、済州島において山口県労務報国会下関支部動員部長として慰安婦とする目的で多数の朝鮮人女性を強制連行した、という吉田清治氏(故人)の証言を掲載した。歴史学者の秦郁彦氏は吉田氏に対する取材や済州島での現地取材を踏まえ、92年4月に吉田証言は疑わしいと指摘したが、同紙はその後も証言記事の掲載を続行。97年3月31日付特集紙面では「真偽は確認できない」と記載したものの、訂正や取り消しは行わなかった。
朝日新聞は14年になって、8月5、6両日付朝刊に検証記事を掲載し、吉田証言が誤報であったことを認め、吉田氏関連の初報を含む16本の記事を取り消した。しかし、謝罪の文言がなかったため、同紙にコラムを連載していた池上氏は8月29日付朝刊に掲載予定だったコラム用に「過ちは潔く謝るべきだ」という趣旨の原稿を送ったが、朝日側は掲載を拒否。これに対し、読者などから報道機関が言論・表現の自由を封殺するものだなどの批判が噴出。木村伊量社長(当時)が、問題化していた福島第一原発事故に関する吉田昌郎所長(故人)調書の誤報問題と併せ、責任を取って辞任する事態となった。

2. 誤報発生から記事取り消しまで
(1982年9月2日~2014年8月4日)
◇訂正嫌がり、問題先送りのまま時が経過
危機管理の第1のポイントは、82年の吉田証言報道以来、なぜ32年間も訂正・取り消しをしないまま放置してきたのかという問題だ。これは木村社長ら14年当時の経営陣だけの責任ではなく、82年以降の歴代経営陣の責任でもあるが、この間、朝日新聞には少なくとも2回、訂正・取り消しのチャンスがあった。最初は秦氏が92年4月に、現地調査などを基に吉田証言は疑わしいと指摘した時。次は97年3月の特集記事で慰安婦問題を大きく取り上げた時だ。
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