社会課題に取り組む企業の意義
国連の持続可能な開発目標(SDGs)がグローバルの共通課題になった。現在、地球規模の社会・環境問題への対応は、社会のあらゆる主体にとって喫緊の課題となっている。この間、企業の社会的責任の考え方も大きく変化している。環境保全を含む社会課題の解決への事業活動を通じた貢献に真剣に取り組んでゆくことが社会の市民としての企業責任と考えられている。このような社会課題のビジネス化への取り組みは、企業に新たなビジネス機会を創り持続的成長戦略にもつながっていくことが期待される。
企業の存在意義は、社会に付加価値を提供することにある。そして、企業活動を通じた経済的価値の創造による将来利益の拡大、投資家への還元を通じて企業活動の継続と金融の安定提供へとつながってゆくことが理想的である。このように企業の新たな取り組みと資金循環の定着が市場メカニズムの中に取り込まれてゆくことにより、将来リスク・リターン情報に反映されてゆくこととなろう。
社会課題のビジネス化といった現在市場外にある非財務要素が市場取引の中に浸透してゆけば、現在の財務要素と同様、市場の指標を通じた企業価値評価につながってゆくことになるが、現時点では非財務要素の指標化には至っていない。このような中で、社会的価値に対して企業がどのように取り組み、どのように発信し、金融機関がどのように対応してゆくかが今後問われることとなる。
金融機関の変化
社会的価値観の変化は金融にも大きな変化をもたらしてきている。国連の責任投資原則 1(PRI)が発表された以降のESG投資2 の拡大、その後のインパクト投資といった新たな流れを生み出した。これらの具体的動きの進展は市場関係者の意識や行動にさらなる変化をもたらしてゆくことであろう。
1:PRI(Principles for Responsible Investment)とは、2006年に当時のコフィ・アナン国連事務総長の要請によって策定されたもので、機関投資家の責任ある投資(責任投資)を推進するために提唱された六つの行動指針・原則のことである。具体的には、E(Environment):環境、S(Social):社会、G(Government):ガバナンスという三つの課題(ESG課題)を配慮した活動をする企業に対し、投資などを行う投資家の活動を指す。
2:ESG投資は、2004年1月にアナン国連事務総長(当時)と彼のチームが、世界の開発課題解決に向けて目標を設定して、その達成に必要な資金を確保するために、民間の投資家の活用増進を念頭に、世界の主要金融機関のトップに手紙を出したことから始まった。
金融機関は、これまでも環境汚染問題などの社会課題に貸し手責任としてかかわってきた。例えば、1980年にアメリカで制定された土壌、地下水汚染に関する浄化責任を規定した包括的環境対処補償責任法(通称スーパーファンド法)は、幅広い関係者を潜在的な汚染責任者と規定していたために、汚染に関わった企業や事業者に融資した金融機関の貸し手責任(Lender liability)についても問われる問題に発展した。これ以降、金融機関が融資等の際に貸し手の環境リスクから生じる責任から免責されるためには、一定の事前調査(デューデリジェンス)を行うことが慣例となった。これが、不動産証券化などで今日一般的となっているエンジニアリングレポートにおける土壌、地下水汚染調査に発展している。
こうした環境や労働関連のリスクに加え、事業の労働安全衛生問題や地域固有の文化等に関する配慮などを含め、環境や社会的な要素を考慮することを規定したルールが、2003年に大手金融機関で策定された「赤道原則3 (Equator Principles)」である。
3:イギリスで策定されたことから当初グリニッジ原則と命名される予定であったが、北半球だけではなく、世界全体の取り組みであるという意味を込めて、赤道原則になったという。
赤道原則は、プロジェクトファイナンスに関する原則であるが、その後、様々な業界別の原則がつくられるベースとなり、責任投資原則(PRI)、持続可能な保険原則(PSI)、責任銀行原則(PRB)へとつながっていった。
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