日航機と海保機の接触・炎上事故で、日航機の乗員乗客が全員無事脱出できたのはなぜか(イメージ:写真AC)

危機事態における行動

羽田空港での日航機と海保機の接触・炎上事故において、不幸中の幸いとなった日航機乗客乗員の脱出は、ある意味奇跡的な対応であり、諸外国からも称賛の声が送られている。乗客367人、乗員12人、計379人が無事脱出した。わずか18分程度の出来事であるが、その真相はどうなのだろう。

事故時の状況を簡単に整理すると、下記のようである。

❶着陸時に異常(衝突)発生、直後にCA(キャビン・アテンダント)より『頭を下げて(ヘッドダウン)』の声掛け

❷草むら内に機体停止、着席の状態維持をアナウンス

❸火災発生を複数乗員・乗客が確認

❹脱出可能な扉を確認、前方扉からの脱出が始まる。同時に中央部の扉外が炎上で扉開放は危険と判断

❺後部座席側と機長との連絡手段が故障、肉声での連携とるも最終的に後部扉の一つで開放可能とCAが判断、脱出始まる
深刻なパニックに陥っていたら脱出は成功しなかった(イメージ:写真AC)

この間、わずか18分程度。若干の齟齬はあるかもしれないが、事実と大きな違いはないと思っている。乗客からの情報によると、少なからずパニック的な要素もあったようだが、しかし深刻なパニック状態に陥っていたならば、このような脱出は成功しなかったのではないだろうか。

上述の❶~❺までのプロセスで、なぜ深刻なパニックに陥らなかったのだろうか。特に、後部座席側の乗客の立場になって考えてもらいたい。そしてそれらの乗客に向き合い、通信手段も奪われた後部座席側の乗員の立場で考えてほしい。

まず乗員の立場で考えると、これは訓練の賜物といえるだろう。普段は乗客を接待するサービス精神を持ち、有事には事態収拾の現場リーダーとして統率する力は、訓練を積まないと培われるものではない。あらためて、この事実には尊敬に近い感謝の気持ちを感じる。

有事の対応に正面から向き合う方々がいて、我々の安全が確保されることを実感させられた事故であった。もし万が一、その場での判断に少々の間違いがあったとしても、攻めるべきではない極限状態だったことも理解しておくべきだろう。

一方で、乗客の立場の方はどうだろう。正直申し上げて、飛行機に乗るごとに安全の案内は受けているものの、地震や火災の避難訓練のような訓練は受けていない。では、訓練も受けずに、整然と指示に従い避難行動を行えたのは、日本人の民度の高さによるものなのだろうか。