2018/07/30
安心、それが最大の敵だ
洪水の検証
問題点3:破堤は、堤防越水による裏法面が侵食による弱体化が主たる原因であった。
具体的に見てみよう。
1. 五十嵐川
今回の豪雨により五十嵐川では、上流の笠堀ダム観測所で昭和40年(1965)の観測開始以降最大となる472mm(24時間雨量)を記録した。この降雨により諏訪地区の破堤地点より上流の島潟水位観測所では、13日の午前7時30分に警戒水位20.70mを超過し、午前10時までのわずか2時間半程度の間に約3m近く河川の水位が急激に上昇した後、午後1時30分には、堤防天端高24.32mに迫る水位を観測した。
この洪水により、下流の三竹地区の越水や諏訪地区左岸の破堤をはじめ、常盤橋下流右岸の欠壊等、いたる所で越水を引き起こし、各地で発生した浸水被害により、五十嵐川流域全体で全壊家屋、半壊家屋、浸水家屋あわせて6840戸(住家)にのぼるなど、浸水面積1320haにも及ぶ未曽有の被害となった。
2.刈谷田川
豪雨により刈谷田川では、上流の栃尾観測所(気象台)や刈谷田川ダム観測所では24時間雨量が422mmと472mmに達するなど記録的な豪雨となった。豪雨により、最も被害の大きかった中之島地区の破堤地点より上流の大堰水位観測所では、13日の午前9時50分に警戒水位16.33mを超過し、午後0時50分までの僅か3時間程度の間に約4m近く河川の水位が急激に上昇した。また、全ての水位観測所で計画高水位を超え、堤防天端(てんば)に迫る洪水となった。
この洪水により、刈谷田川本川の中之島地区左岸の破堤をはじめ、明晶町、河野町、宮之原町、支川稚児清水川(2カ所)での破堤に加え、各地で越水を引き起こすこととなった。水面積1153haにも及ぶ甚大な被害となった。
破堤メカニズムの検証
五十嵐川での破堤を検証する。一般に、洪水時における河川堤防の変状は侵食・越流・浸透の3つの現象によってもたらされると考えられる。
今回、破堤に至った五十嵐川(諏訪地区)において、ヒアリング調査、水理水文解析、堤体および基礎地盤状況を把握するための土質調査等を実施した。
堤防に作用した降雨は、1カ月前からの降雨量でみると360mmを越え、河川水は7月13日午前10時前後に堤防天端を超え始め、その後低下して再び正午ごろから水が上昇し越水が生じたものと考えられる。非定常浸透流解析によると、河川水位が天端に迫ると基礎地盤の砂礫層での圧力が高まり、堤内地でボイリング(噴水、噴砂)が生じる可能性があることから、10時前後にはこのような現象が生じていたものと推定される。
破堤が生じていない対岸においても同様な解析結果が得られている。また、調査結果から推測すると破堤に直接つながる基礎地盤を破壊するような浸透現象(パイピング)は生じなかったものと考えられる。河川水位はその後低下し12時頃から再び越水が発生すると、越流によるせん断力がのり面の植生の耐侵食力を上回る状態が続き、越流水の落下するのり尻部の洗掘及び越流水が流下するのり肩からのり面が侵食し、さらに拡大して破堤に至ったものと推定される。その後堤防は一部は下流側へ、主体は上流側へ破堤が拡大したものと推定される。これは、破堤後の落堀の形状と堤内地の稲の倒伏状況からも読みとれる。
堤内地に散乱する砂礫や玉石は、堤体材料のほか、破堤に伴い基礎地盤が深く抉られたために砂礫層の一部が流出したことによると考えられる。以上のことから、五十嵐川(諏訪)の破堤は、越流による裏法」面等の侵食が主原因であると考えられる。
今後の堤防整備・管理のあり方
7.13 新潟豪雨で破堤した五十嵐川(諏訪地区)の堤防、刈谷田川(中之島地区)の堤防では、明治期に作られた堤防を嵩上げ、拡幅し現在の堤防としたと考えられる。一般に破堤の要因としては、「河川の流水による侵食」「堤体内あるいは基盤における雨水及び河川水の浸透」「堤防を乗り越える越水」が上げられる。
河川管理施設等構造令では、一般の堤防を流水が河川外に流出することを防止するために設けるものとしており、構造の原則として「計画高水位以下の水位における流水の通常の作用に対して安全な構造とする」ものとしている。従って、一連区間の堤防の設計は越水を外力としては想定していない。
今回の五十嵐川と刈谷田川の破堤の主要因は越水である。これは洪水流量が現況河川の流下能力を上回ったことにより発生したものであり、同規模の洪水に対して越水破堤に関する安全性を確保するためには、この洪水流量に対応できる流下能力を確保できる改修を実施することが必要である。
今後、新規の改修事業のみならず、既設堤防の補強も含め、以下に列挙する事項を考慮して堤防の整備・管理にあたることが望まれる。
堤防整備の新たな観点
(1)空間的整備の調整(堤内地土地利用、本川と支川、上流と下流、右岸と左岸等)
(2)時間的整備の調整(緊急的、整備計画レベル、長期的等)
(3)他の事業等との調整(道路、都市計画等)
・堤防が位置している地盤の地形(新、旧)、堤防の形状及び被覆状況、過去の被災の有無と被災内容、既往ボーリング調査位置、堤体土質、重要水防箇所評定基準に基づく評価結果、高水敷の幅と高さ等について、河川ごとに堤防の現状を把握する。
・堤防の現状をふまえ、計画的に堤防の耐浸透機能、耐侵食機能に対する安全性の照査を行う。照査の方法は、堤防設計指針(平成14 年7 月 河川局治水課)による。この結果、所定の安全性の水準を満足していない区間については、以下のような考え方で強化を実施する。
1.侵食への対応
・ 堤体表のり面及びのり尻部の侵食耐力の強化
・ 側方侵食対策
・ 洗掘対策
・ 侵食外力の軽減
2.浸透への対応
・ せん断強度の大きい堤体材料の使用
・ 浸透水及び表面水の排除
・ 天端及び堤防のり面からの浸透防止
越水については、侵食及び浸透への対応と異なり、計画規模以下の洪水に対しては、越水を生じさせないように流下能力を増大する河川改修が基本であり、高規格堤防を除けば耐越水を考慮した堤防がないこと及び越水に対して壊れない堤防に関わる技術的知見が十分でないこと等から堤防強化の方針に含めないこととした。
堤防の管理方式
同県内には多くの河川が存在し、長大な延長を有する堤防について、基礎地盤の状況も含めた堤防の土質構造を完全に把握することは容易ではない。県内の堤防をある一定の規模にまで整備するためには、多大な費用と期間を要することから、既存のストックを有効に機能させ、少しでも安全性を上げることが重要となる。
このことから、堤防の洪水に対する安全性を維持・向上させるためには、計画的な堤防強化と併せ、日常からの堤防の監視と管理に加え、洪水時の水防活動を効果的に実施することが重要となる。
特に、堤防の監視・管理にあたっては、以下の事項に着目して日常から情報を蓄積し、補修、補強等の適切な処置を施すことが重要となる。得られた情報は蓄積し、効果的、効率的な堤防管理につなげていくことが重要である。
(1)堤防高
(2)堤防天端の被覆状況と変状
(3)のり面の植生(特に植生が乏しく裸地の状況になっていないか)
(4)のり面の変状、亀裂
(5)堤防際や河岸沿いの深掘れ
(6)護岸の変状、亀裂
(7)洪水・地震後の堤防の状況
(8)裏のり面及び堤内地の漏水、噴砂、地盤の隆起
(9)樋門等構造物周辺の変状
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