この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまったため、紅葉山FCでは他の利用団体や様々な関係者の協力も得ながらグラウンドの利用再開を目指しています。これまで野球チーム、地元のサッカー協会、さらには商店会の理事長にも会って、多様な観点からの意見に耳を傾け、協力関係を築いてきました。一方、渉外担当の近藤が調整してくれたおかげで、近隣住民からの苦情について事情を知っていると見られる自治会長の藤田とようやく会えることになり、高宮と近藤が藤田の自宅を訪問しました。

高宮:紅葉山FCというサッカークラブで監督をしております、高宮です。近隣の住民の方々から苦情をいただいたという事で、この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。我々としては現在グラウンドの利用を中止しまして、事実関係の確認を進めているのですが、実はいろいろ分からないことがありまして、詳しい状況を教えていただけないかと思いましてお伺いしたところなんですが......。

藤田:いや、そう言われてもね、私も直接見たわけじゃなくて、先月の防災訓練の後に、訓練に参加された主婦の方々から話を聞いたんですよ。グラウンドで練習しているサッカーか何かの音がうるさいとか、駐車場じゃないところに車が停めてあって邪魔だとか。

高宮:そういう話は市の方からも伺っているんですが、具体的に何日だったとか何曜日だったとか、分かりませんか?

藤田:いやぁ、私もそこまでは聞いてないけどね。

高宮:そうしましたら、その苦情をおっしゃていた方々のお名前を教えていただけないでしょうか?私から直接確認させていただきたいと思うんですが。

藤田:いや私から勝手にお名前を言うわけにはいかないですよ。

高宮:でも、そうなると我々としてもお手上げなんですよ。実はこちらでも確認したんですが、我々紅葉山FCと野球チームの中で、駐車場以外の場所に車を停めたことがある人はいないので、少なくとも迷惑駐車に関しては心当たりがないんです。とりあえず迷惑駐車が何曜日だったかが分かれば、どの団体が利用した日なのかが分かります。何とかご協力いただけないですかね。

藤田:まあ......そこまで言うなら聞いてみるけどね。ただ、いつまでに聞いておくとかは、お約束できませんよ.......。

一方、備品担当の丸山が代わりの練習場所を手配してくれたおかげで、16日(木曜日)の夜は隣の市にある滝ノ上小学校を確保できました。ただし公共交通機関では行きにくい場所にあり、メンバー14人のうち、車を持っているメンバーが5人しかいないため、以前に申し合わせたとおり、車を持っていないメンバーを5人で手分けして乗せていくことになりました。

運営担当の岡田はできるだけ住所が近い者どうしを組み合わせて、前日までに割り振りを決めて関係者に連絡しました。しかし当日の夕方になって、車を出す予定だった前原から、仕事の帰り道で渋滞が発生したため、練習時間に間に合わないという連絡がありました。

そこで岡田はメンバーの中で住所が比較的近い沢崎に電話し、前原の車に乗る予定だった2名を乗せてもらいました。メンバーの人数を考えると車が少なくとも4台あれば間に合うところを、一応余裕を見て5人に依頼していたことが奏功しました。