イラスト:上倉秀之
この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。
[前回までの記事はこちら]
紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまいました。他の利用団体や関係者と議論を進めた結果、利用団体による「市営グランド利用者協議会」を設立し、協議会としてグラウンドの利用ルールを作ることや、住民苦情への対応窓口を設けることなどについても合意が得られました。
その後、協議会の設立は市から正式に認められることになったので、自治会長の藤田にも協力を得て調整してもらい、市営グラウンド利用者協議会からグラウンド近隣の方々に対する説明会を開催できることになり、説明会当日はグラウンド近隣から10人が出席しました。
出席者ではまず協議会代表の高宮から近隣住民に対して、利用団体による迷惑行為についてお詫びした上で、グラウンドの夜間利用自粛から協議会の仮発足に至った経緯を説明しました。ここで近隣住民のひとりである内川から手が挙がりました。
内川:経緯は分かりましたけど、結局のところ、こないだの迷惑駐車とか、夜中にうるさかったのは結局誰だったんですか?
高宮:今のところ、夜中に大声で騒いだり、迷惑がかかるような場所に車を停めた者は、サッカークラブと野球チームの中にはいませんでした。当時は我々の他にもう一つ、フットサルのグループが毎週水曜日に練習をやってまして、実際に迷惑行為があったのも水曜日だったということでしたので、ご迷惑をおかけしたのはフットサルグループではないかと推測しておりますが、彼らは先月から練習場所を他に移したので協力いただけておらず、事実関係の確認もできていないというのが現状です。
内川:つまり「俺達は知らん」ということですか。
高宮:私たちとしてもこれでは皆様に納得していただけないだろうと思いまして、再発防止と、もし何か問題があったときに連絡先を分かりやすくするという観点から、このような協議会を立ち上げることになった訳です。今後はもし何かあったら、すぐ協議会に連絡いただければ対処できるようになりますので、これだけでも随分違うと考えていただければ......
内川:そうですね。こないだも迷惑だなと思ってから藤田さんに話すまで随分と間があいてましたからね。
これで何とか近隣の皆さんも納得してくれそうかな、と思ったところで、同じく近隣に住んでいるという園田から、予想外の質問がありました。市営グラウンドは災害発生時の避難場所に指定されているが、もしグラウンドがサッカーや野球で使われているときに災害が発生し、近所の人たちが避難してきたら、協議会や利用団体はサポートしてくれるのか?というものでした。
高宮は「それとこれとは別の話でしょう」と一瞬言いかけましたが、このような観点も含めて取り組んでいかないと、近隣住民の方々との信頼関係もできないかもしれないと思って言葉を呑み込みました。とにかく今日の目標は、グラウンド近隣住民の方々との間の信頼関係を作ることです。
園田:災害が発生したときに利用団体がやるべきこととか決めておいていただければ、近隣に住んでいる我々としても、どうすべきか分かりやすいと思うんですよね。
高宮:なるほど。まあ具体的な内容はここでは決められませんけど、協議会として地域防災に関しても何らかの役割を担うということは決めておきませんか?具体的な内容については今後あらためて決めるということにして。
松嶋:そうは言っても我々だって防災に関する知識は持ち合わせてないんで、グラウンドの利用団体が災害のときにどうすべきか、市の防災課からレクチャーか訓練でもやってもらえるといいですね。
朝倉:それなら、今度の6月の試合の日はどう?近所の皆さんもご存知だと思いますけど、また今度の6月にサッカーの大会があるじゃないですか。あれは結構人が集まるんで、そこで防災に関する訓練とか、なんかイベントできないですかね。
園田:それはいいですね。自治会でも一応、防災訓練とか、防災に関する勉強会なんかもやってるんですが、あまり人が集まらないんですよね。
松嶋:これまでは単にサッカー大会だったんでウチは関わってませんでしたけど、今度は協議会としての行事になる訳ですから、野球チームからも人手を出して、交通整理とかもやりますよ。
高宮:ありがとうございます。じゃあ具体的なことは今後また協議するとして、まずは6月のイベントに向けて一緒に頑張っていきましょう。
こうして予定外の方向に話が広がったものの、少なくとも夜間利用の団体については協議会への参加が義務付けられることを条件として、今週から市営グラウンドの夜間利用について再開してよい、ということが合意されました。
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