イラスト:上倉秀之
この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

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紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまったため、他の利用団体や関係者の協力を得ながらグラウンドの利用再開を目指しています。これまでの取り組みの中で問題の所在や近隣住民の意向がある程度分かってきましたので、監督の高宮と渉外担当の近藤、野球チーム代表の松嶋、県サッカー協会の藤崎と市役所OBの茅森、市の担当者の日吉が市役所の会議室に集まりました。

会合の冒頭に高宮から、これまでの経緯を簡単に振り返った後、自治会長経由で確認した話を踏まえて、問題の原因がフットサルグループである可能性が高いと思われることを報告しました。

高宮:この場にフットサルグループの方に来ていただけなかったこともあって、原因を断定することは出来ないですし、欠席裁判になるのも良くないと思いますので、あくまでも「フットサルグループである可能性が高い」としか言えないと思います。このような中途半端な状態で、近隣住民の方々に納得していただく方法を何とか考えたいと思うんですけど、皆さんいかがでしょうか?

藤崎:まあ、原因が分からなかったとしても、今後同じようなことが起こらないような仕組みができることが大事なんじゃないですかね。

日吉:私の立場から申し上げるのも何なんですが、市としては、あえてあまり細かいルールを設けていないので、今回の迷惑行為は明確に「ルール違反」とは言えないんです。したがってルールというよりもマナーというようなレベルで、今後の行動を考えていただければと思うんですが。

高宮:まあ、そうですよね。通路は静かに歩けとか、いちいち施設のルールとして書くような話でもないですよね。

松嶋:ただ「マナー」だと人それぞれ感覚が違うだろうから、やっぱり何らかのルールを作って、近隣の方々との間でそれを守るという約束が必要なんじゃないですかね。

ここで県サッカー協会の藤崎から他の地域での事例として、公共施設を利用する団体が集まって「利用者協議会」を作っている例が紹介されました。市から認められた協議会としてルールを作り、それをお互いに守るようにすれば、今後のトラブルを防ぐことができそうですし、近隣の方々から見ても一定の理解を得られるのではないかと思われました。

日吉によれば、他にも複数の自治体で似たような事例があることから、市としても対応可能だと思われるものの、自分の一存では決められないとの発言があったため、上司と相談して後日あらためて提案をまとめることになりました。

そこで、「市営グラウンド利用者協議会」の設立が市からも承認されることを見込んで、今後の進め方を考えておくことになり、これまで中心となって動いてきた高宮が暫定的に代表を務めることになりました。

松嶋:まず今回の苦情の原因になった、騒音や迷惑駐車につながるような行為を禁止するルールを明文化する必要がありますね。そしてそれを近隣住民の皆さんにも公開して、我々はこれらのルールを守りますよ、という約束をする。

近藤:そうですね。そして今後は全ての利用者団体が協議会に入るので、結果として全ての利用者がこれらのルールを守ります、ということになる。

藤崎:もし守らない人がいたら?

高宮:苦情を受け付ける窓口を決めて、それをお知らせしておいたらどうでしょうか。迷惑行為を行った団体がどこだろうと、協議会に連絡してもらえば責任を持って対応する、ということにしたら、近隣の方々にとってもある程度は納得してもらえるんじゃないでしょうか。

話し合いは順調に進み、協議会の設立が承認されたら昼間の利用者団体にも説明して加入をお願いすることが確認されました。

また、近隣の方々との関係を考慮して、自治会長や商店会の理事長にも協議会の役員になってもらった方が良いだろうという事になりました。