イラスト:上倉秀之
この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

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紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなりましたが、「市営グラウンド利用者協議会」の発足により近隣の方々の理解が得られ、グラウンドでの練習を再開できるようになりました。また県のサッカー協会の公式戦に合わせて開催された「紅葉山地域防災の集い」も無事に成功し、翌週の反省会では自治会や商店会、近隣の方々にも概ね好評だったことが共有されました。

反省会の後、その流れで飲みに行こうということになりました。試合会場にも屋台を出していた居酒屋で席がとれたので、反省会に出席したメンバーがほとんどそのままに流れ込む格好になりました。

高宮(紅葉山FC監督):まずは皆さん、この度は大変お疲れさまでした。

松嶋(野球チーム代表):どうもお疲れさまでした。とりあえず、ひと山越えましたかね。

高宮:そうですね。4月にグラウンドが使えなくなったときは、本当にどうなるかと思ったけど、あれから3ヶ月でこういう事になるとは全く想像してませんでしたね。もともと自分たちの練習場所を確保することしか考えてませんでしたからね。それが協議会とか防災の集いとか.....

松嶋:まあ、でも協議会という形が実現できなければ、近隣の方々に納得してもらえるまで時間がかかったと思いますから、先月の試合には間に合わなかったかも知れませんよね。

高宮:そうなんですよ。だから藤崎さんからアドバイスをいただけて本当に良かったと思います。ありがとうございます。

藤崎(県サッカー協会):いや、私は単に、他の地域での事例を知ってたっていうだけですからねぇ.....

高宮:それが良かったんですよ。当事者の中だけで議論しても大したアイデアは出ないですから。サッカー協会を通して外部からの視点を入れられたことが良かったと思っています。

松嶋:ところで紅葉山FCさんは、練習場所の確保とかずいぶん早く対応されてましたよね。

高宮:その点は全部メンバーに任せちゃったんで、私はほとんど何もしてないんですよ。練習場所の確保とか、それに伴う段取りや連絡は全て丸山と岡田に任せてましたから。あれも全部私がやってたら間に合わなかったと思いますよ。当面の活動に必要なことを任せられたから、状況を先回りしていろいろな判断ができたと思いますし。

松嶋:そうだったんですか。うちもそうしたいなぁ。ああいう状況で先回りしていろいろな判断ができるのは大事ですよね。うちはそれができなかったんで練習場所の確保が間に合わなかったりしましたから。ところで今回は日吉さんにも大変お世話になりました。ありがとうございました。

日吉(市役所スポーツ推進課):いえいえ、私は役所の立場でやるべきことしかやってませんから.....

高宮:まあでも協議会の設置に関しても調整早かったですよね。

日吉:あれに関しては庁内で異論が出なかったので早くできました。自治会長さんとか商店会さんが関与してくださったおかげで、安心感があったようです。

松嶋:ところで、とりあえず今回のイベントが無事に終わって一安心しましたけど、この協議会って我々のような夜間利用の団体だけじゃなくて昼間の団体にも参加していただかなければならないですから、本格的な運営はこれからですよね。高宮さん、いろいろ大変になると思いますが、頑張ってください。

高宮:松嶋さん、そんな他人事みたいな言い方しないで下さいよ。

松嶋:いやいや、もちろん私も設立の経緯を知っている者の一人としてサポートさせていただきますよ。

高宮:お願いしますよ。日吉さん、今の聞いてた?ちゃんとメモとっといてね。我々も昼間利用の団体の方々とは全く面識ないからね、関係づくりから始めないといけないから大変ですよ。

藤田(自治会長):そのへんは自治会としても協力しますから.....

高宮:日吉さん、今のもメモしといて!

ほんの3ヶ月前には影も形もなかった「市営グラウンド利用者協議会」でしたが、イベントの開催という共同作業を経験することで、関係者間での一体感ができつつあることを、高宮は実感していました。

フットサルグループとの関係や、昼間利用団体の参加など、取り組むべき課題はまだ残っていますし、自分自身が協議会でこのような役割を担うことになるとは全く考えていなかったものの、酒の影響もあってか高宮は楽観的でした。この人達とならばうまくやっていけるのではないか、という手応えを感じていましたし、この3ヶ月間における経験や教訓も、今後の活動にプラスになるでしょう。発足したばかりの協議会ですが、これからどのように運営していけるか、楽しみになってきました。