イラスト:上倉秀之

この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

[前回までの記事はこちら]

紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなりましたが、「市営グラウンド利用者協議会」を設置してグラウンドの利用ルールを決め、苦情も協議会で受け付けることで、近隣の方々と合意することができ、グラウンドでの練習を再開できるようになりました。

ところが翌週月曜日の昼間に、紅葉山FCの監督である高宮に、市の担当者の日吉から電話がありました。日吉によると、以前に練習場所を他の場所に移したフットサルグループが、再び市営グラウンドを利用するために、利用申込みに来たとのことでした。

高宮としては、フットサルグループは利用停止の原因だと疑われている団体なので、説明や謝罪をしてもらう必要と考え、協議会関係者とフットサルグループとで会合を持つことにしました。

早速その週の金曜日に、紅葉山FC監督の高宮、野球チーム代表の松嶋、市の担当者の日吉と、フットサルグループの白鳥が公民館に集まり、まず最初に協議会代表の高宮から、市営グラウンドが利用できなくなってから協議会設立までの経緯と、近隣住民向けの説明会で話し合った内容が説明されました。

高宮:地域の方々にも説明してますから、今後市営グラウンドを利用したいのであれば、まず協議会のメンバーになってもらって、協議会で定めたグラウンド利用ルールに基づいて利用していただく、ということになります。

白鳥:わかりました。では、ウチもその協議会に入れてもらえますか?

高宮:ふざけんなこの野郎! 何なんだよその態度は! だいたいお前らのせいでこんな面倒くさい事になったんじゃないか。それをお前、ただ「入れてもらえますか」はねぇだろうが! 「すみませんでした」とか何かないのかよ!

白鳥:いや意味わかんないんですけど。なんで俺が謝らなきゃならないんですか?

松嶋:まぁまぁまぁ白鳥さん、今のところグラウンドを利用できなくなった原因を作ったのがフットサルグループだと思われてるわけなんだけど、このことに対してアンタはどう思ってんの?

白鳥:いや前にも紅葉山FCの人に話したと思うんですけど、ウチのメンバーがそういうことをしたかどうか分からないんですよ。その日に誰が参加してたのか、いちいち記録なんかとってないですから。そもそも俺だって代表でも何でもないんですよ。たまたま自分の名前でグラウンドを申し込んでるだけで。だから謝れとか言われても、何で俺が謝るの? としか思えないんですけど......。

このような状況の中で話し合いは膠着状態となり、フットサルグループの参加を認めることに対して後ろ向きな流れができていきましたが、市の担当者である日吉としては、できるだけ多くの市民にグラウンドを使ってもらうために、何とか話をまとめたいと考えていました。そこで、しばらく沈黙を守っていた日吉が意を決して切り出しました。

日吉:前回の協議会の会合で、新しい団体が今後加入する際の手続きを決めましたよね。ここに議事録持ってきてます。フットサルグループに関してもこの手続きをしっかり進めていただくという前提で、参加を認めていく方向で議論を進めていただけないでしょうかね。フットサルグループにおいては代表が決められていませんが、協議会の役員を1人出してもらって、協議会としてはその役員を「代表」とみなせば、先日合意した手続きができると思います。

それから、フットサルグループでは毎回のグラウンド利用時の参加者リストを作ってもらって、何か問題があったときに連絡や確認ができるようにする。この2つだけでもやってもらえば、前回議論した手続きは進められるんじゃないですかね。

どうですか白鳥さん、このくらいはできませんか?

白鳥:それって結局また俺がその「役員」になるってことですか。たまたま近くに住んでるだけなのに。参加者のリスト作るのも面倒ですよ。

日吉:参加者のリストくらい作ってもらわないと、市としては施設管理者としての管理責任を果たせないんですよ。ここは何とか引き受けてもらえませんかね。

白鳥:まあ、しゃあないっすね。

日吉:どうですか高宮さん松嶋さん、こういう条件で同意していただけませんかね。

高宮、松嶋とも、謝罪が無いことについては釈然としないものの、とりあえず日吉の提案が守られれば、少なくとも今後は何か問題が発生した時の調査は従来より格段に早くなると思われましたので、日吉の提案に同意することにしました。