NO.2 感染症の拡大

次が「感染症」だ。ウイルスの媒体となる人や動物の移動が非常に激しいということで、当然ながらこれからも感染症は増えるし、新たなものも出てくるだろう。2003年5月にSARS(重症急性呼吸器症候群)の問題があり、2009年4月には新型インフルエンザの問題があった。そして、昨年は、MERS(中東呼吸器症候群)の感染拡大や、西アフリカを中心に感染が拡大するエボラ出血熱が世界を震撼させた。最近ではジカ熱が南米を中心に拡大している。ちなみに、感染症の中で個人的に一番怖いと思うのが狂犬病だ。東南アジアも含めて、海外に出た場合に一番気をつけなくてはいけない。世界では年間5.5万人が狂犬病のために死亡しているという調査結果もある。有効な治療法はなく、発病したらほぼ100%助からない。狂犬病を持った犬は、昼間は非常に静かだが、夜になると急変する。逃げれば追いかけてくる。もし、犬に噛まれた場合にはすぐにワクチンを投与しなくてはならないが、できるだけ出国前に予防接種も受けておくことが望まれる。

NO.3 世界情勢の不安定化

3番目が「地政学リスク」だが、地政学リスクが注目されたのは、そもそもは戦前のことである。ナチスドイツが東欧とロシアと戦争をする時の1番のよりどころになったのが地政学で、ユーラシア大陸全土をおさえるためには、まず東欧をおさえるのがベストという学説があり、こうした学説を地政学と呼んだ。戦後はほとんど地政学という言葉は使われなくなったが、2002年9月にアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が「地理的条件を基軸とした、政治的な影響などにまつわるリスク」を全て総称して再び使い始め、それ以降、よく使われるようになった。したがって定義もかなりあいまいである。強いて言えば、世界が政治・経済・社会の全てにおいて流動化している中で起きうるリスクということができる。例えば、北朝鮮やウクライナをめぐる問題や、中東で活発化しているイスラム国も含めた過激な組織により、政治・経済・社会に起因するリスクが顕在化することなどだ。また、国のガバナンスが失われる大規模なテロ活動も地政学リスクに含まれ、非常に幅が広い。

NO.4 格差拡大に伴う社会不安定化

格差による問題は、意外にも大きなリスクを引き起こす。

「ジニ係数」という社会における所得分配の不平等さを測る指標がある。1.0がマックスに対して、ジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化すると言われる。新興国ではかなりの国が0.4を超えている。例えば中国は0.47で日本は0.36。不安定化することによって、急激な政治状況や経済状況の変化が起きやすくなる。今、まさに世界はこのような状況になっている。アメリカも0.48~0.49で、先進国であっても雇用機会を多くの人が失うような問題が起きている。南アフリカに至っては0.625で、これは極めて高く、ブラジル(0.519)もそれに次いで高い。実際、すでにブラジルでは、リオデジャネイロのオリンピックに関連していろいろな問題が噴出しているし、2014年のワールドカップの開催前には、教育や医療などの福祉が十分に至らない状況でW杯を開催することに多くの市民が不満を持ち大規模なデモが発生した。また、ジニ係数に加え、一人当たりのGDPやインフレ率、失業率などを見て、さまざまな側面から社会の不安定化ということを認識することが大切だ。参考までに、失業率が決めて低いのがタイで、ほぼ完全就業に近い状態になっている。さらに、タイでは現在、周辺国のラオス・ミャンマー・カンボジアから流入する労働力を制限しようとしている。ただでさえ完全雇用なのに、周辺国の出稼ぎ労働者も排除しようとしているということは、今後、タイにおける賃金の上昇や優秀な人材の確保が極めて難しくなることを示唆している。