第156回:パンデミック対応を経験して危機管理をどのようにアップデートしていくか
BCI / Crisis Management Report 2021
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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BCMの専門家や実務者による非営利団体であるBCI(注1)は、2021年9月1日に「Crisis Management Report 2021」を発表した。本連載でこれまで紹介してきたBCIの調査報告書の多くは、過去数年にわたって継続的に発表されてきたものであるが、今回紹介する「Crisis Management Report」はそれらとは異なる全く新しい調査報告書である。
本報告書は主にBCIの会員を対象として、2021年5月から6月にかけて行われたアンケート調査の結果に基づいて作成されている。この調査には76カ国から636人が回答しており、回答者の約3分の1は欧州だが、アジアからの回答も22%、北米からの回答も16%程度含まれている。
なお本報告書はInternational SOS社と共同で制作されており、随所に同社のSecurity Director やMedical Directorによる解説が挿入されている。このような時期に行われた調査だからということもあり、新型コロナウイルスによるパンデミックへの対応を経験した組織が、どのように危機管理体制をアップデートしているか(しようとしているか)が分かる報告書となっている。
本報告書は下記URLにアクセスして、氏名やメールアドレスなどを登録すれば、無償でダウンロードできる。
https://www.thebci.org/resource/bci-crisis-management-report-2021.html
(PDF 76ページ/約 2.7 MB)
ところで、タイトルにある「crisis management」については一般的に「危機管理」と訳されることが多いが、そもそも「crisis」という用語の定義や使われ方が定まっていないという問題がある。日本産業規格JIS Q 22320の2013年版(注2)の巻末に掲載されている解説では、英語圏においては危機の規模および発生頻度の多寡に応じて「incident」「emergency」「crisis」「disaster」「catastrophe」という用語が用いられていることが指摘されているが、どの程度の規模のものを「crisis」と呼ぶかは、個々の組織や個人によって異なる。
本報告書においてもこの点は認識されており、回答者の多くが組織内で「crisis」の代わりに「incident」を用いていることも指摘されている。したがって本報告書を読む際には、本報告書の中で「crisis」や「crisis management」の対象にかなり幅があることに留意すべきであろう。
本報告書は次の3つのセクションから構成されている。
・Crisis management structure (危機管理体制)
・Planning for a crisis (危機のための計画)
・Technology in a crisis (危機におけるテクノロジー)
1つ目の危機管理体制に関しては、回答者の組織における危機管理体制がどのような構造になっているか、それは有効に機能しているか、というような観点の設問が含まれている。ここでは特に、中央集権的なアプローチと現地における自律的な対処との組み合わせが重要であることなどについて、相応の紙面を割いて説明されている。
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