組織の生産性を上げるエンタープライズ・リスクコミュニケーション
2021年7月3日、静岡県の熱海市で発生した土石流災害では、複数の死者が出ていまだに安否が分からない住民がいます。災害発生当時「土砂災害警戒情報」は出ていたものの、自治体からは住民の全員避難を促すレベル4の「避難指示」は発令されていませんでした。
今回の災害から防災に携わる行政の担当者は、もし自分の地域で同じような災害が発生した時、適切な対応ができるのだろうかと不安な気持ちを抱えた方もいたのではないでしょうか。特に今回は集中豪雨ではなく、数日にわたって降り続いた雨による土砂災害で、避難指示のタイミングは難しかったと想像できます。避難指示を頻発させれば信用を失う恐れもあり、加えて避難情報のルールが変わったばかりで、自治体は厳しい判断を迫られていました。
一方、豪雨などの災害の場面でよく言われるのは、「住民は避難しない」ということです。避難指示を出し、避難所を開設しても実際になかなか避難してくれないことが問題になっています。
ではどうすればいいか。そこで必要なのは「リスクコミュニケーション」という考え方です。
行政のリスクコミュニケーションでは、効果的な手法で的確な情報伝達を行い、住民個人では回避できないリスクの問題について社会的な合意を得る必要があります。そのためには、住民の行動特性を理解し、自由な選択を確保しつつ、より良い意思決定を促し、より良い行動を引き出す必要があります。
つまり、災害時の危機管理を効果的に行えるよう、平時に行うリスクマネジメントにおいて、住民の考え方を理解し、彼らに実際に行動を起こさせるコミュニケーションができるよう備えをすることが重要なのです。
アメリカでハリケーンが上陸したとき、避難をしてくれない人に対して効果的だったのは「残留する人は体にマジックで社会保障番号を書いてください」というメッセージでした。このメッセージを聞いた人々は自分が災害で死亡している姿を想像するので、これにより行動を促せたといいます。
このように、実際に行動を起こさせるコミュニケーションという点において、行動経済学の「ナッジ理論」を活用することは有効です。2002年のダニエル・カーネマンに始まり次々と行動経済学者がノーベル賞を受賞し、その中でも特シカゴ大学のリチャード・セイラー教授の「ナッジ理論」は注目を集めています。ナッジとはヒジで軽く突くような小さいアプローチ、人の行動を変える戦略のことで、男性トイレの飛び散り防止のための便器内のハエのマークの例が有名です。
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