出典:storyset

「公益通報者保護法」が改正され、従業員301人以上の企業や医療法人、学校法人、その他公益法人等は内部通報制度の整備が義務付けられました(2022年6月1日施行)。

内部通報制度とは、組織の不正リスクの発見を容易にするために、不正行為を発見した従業員等からの報告について、上司を通じた通常の報告ルートとは異なる報告ルートを設ける制度です。この制度の目的は、組織が自社内で不正を発見し対処する作用(自浄作用)を発揮させ、コンプライアンス経営を実現することです。

リスクコミュニケーションの視点から、ヘルプライン(内部通報制度)が適切に運用されると、不正行為が早期に発見され、以下のような、レピュテーション低下につながるリスクが回避できると考えられます。

・不正な売上計上、横領行為、取引先からのリベートの受領、架空経費請求、データ偽装、品質偽装、ハラスメント、違法労働などの不正行為が、社内で対応する前に外部に漏れる
・直接行政機関や報道機関に、組織の不正行為が通報される
・不正行為の発見が遅れる

 

ヘルプラインが機能し、自社で不正を発見し、解決できる事業者になることができれば、組織の社会的な評価を高めることにつながり、さらに風通しのいい企業風土をつくることに結び付きます。

しかし、通報者予備軍にとっては、果たしてきちんと機能するか疑念があると思います。例えば、トップまで不正の事実を知っていると容易に想像できる組織では、内部に通報しても自分の身は守れないというようなケースです。その場合、メディアや行政に直接リークするようなことが起きるリスクがあります。

さらに、ヘルプラインの所管部署は法務部門、コンプライアンス部門、人事労務部門、監査部門などが担当することが一般的ですが、この活動を部門任せにしていると弊害が出てきます。例えば、管理部門において、認識すべきリスクの抜け漏れ、経営陣に上がってくる報告項目の不統一といったことが考えられます。また、担当部署では、ヘルプラインに人事労務上の不満など、制度の趣旨にそぐわない通報に労力がかかってしまうことがあるでしょう。結果、もう少し配慮しておけば防げたはずの問題がこじれたり、もう少し踏み込んだ検討をしておけばつかめたはずのチャンスを逃したりといったことにつながります。

そのため、根本的には組織の風通しのよさをどう作るか、ということが重要であり、極端な表現になりますが、ヘルプラインを使わなくてもいい組織にすることを目指すべきと考えます。