欧州における気象災害の傾向を知る
EASAC / Extreme weather events in Europe - Preparing for climate change adaptation: an update on EASAC's 2013 study
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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EU加盟国各国の国立科学アカデミーによって構成されている諮問機関である European Academies' Science Advisory Council(略称 EASAC)は、2018 年 3月に「Extreme weather events in Europe」(欧州における異常気象現象)(以下「本報告書」と略記)という報告書を発表した。これは副題に「気候変動への適応のための準備:EASAC の 2013 年の研究に対するアップデート」と書かれているとおり、2013年11月に同じく EASAC が発表した「Trends in extreme weather events in Europe: implications for national and European Union adaptation strategies」(注1)という報告書に対するアップデートである(注2)。
EASAC では欧州における気候変動の影響を継続的に調査しているようであり、本報告書には気候変動に関連すると考えられる気象災害の発生状況が掲載されているので、ここで紹介したいと思う。
図1は1980~2016 年にかけての自然災害の発生状況の変化を、1980年の値を100%として示したものである。2013年の報告書には 2012年までのグラフが掲載されており、本報告書ではこれに直近の4年分が追加されている。データの出所はミュンヘン再保険の NetCatSERVICE とのことである(注4)。
直近の状況を見ると水文学的事象が著しく増加しているのが目立つが、この点に関して本報告書では、社会経済的な発展がエクスポージャーに与える影響を考慮すべきだと指摘している(注5)。つまり社会経済的な発展によって人口が増え、洪水などが発生するリスクが高い地域の居住者が増えたために、洪水による災害が増えた可能性があるという事であろう。
またインターネットの活用などによって、30年前に比べると小規模な災害の発生を記録しやすくなったことも、件数増加に繋がった可能性があるという指摘もされている。
図2は一定規模以上の洪水の件数の変化を示している。データの出所は米国のダートマス大学による「Dartmouth Flood Observatory」(注6)というデータベースで、「過酷さ」(severity)と「マグニチュード」(magnitude)はいずれも Dartmouth Flood Observatory で定義されている指標である。「過酷さ」はクラス1、1.5、2の3段階に分けられており、数字が大きいほど大規模である。このグラフで基準としているクラス 1.5 とは概ね 20~100 年に1回程度発生するような規模の洪水とのことである。また「マグニチュード」は継続日数×過酷さ×被災面積(km2)の対数で表される。図2では過酷さが1.5以上、マグニチュードが5以上の洪水の件数が示されているが、図を見る限りでは大規模洪水の件数が増加傾向であるように見える。
以上のような定量的なデータのアップデートの他に、本報告書では気候変動に関する最近の調査研究の結果が紹介されている。特に欧州の気候変動に影響を与える現象として、Atlantic Meridional Overturning Circulation(AMOC)という北大西洋での海流の循環現象の動向に関する説明にページが割かれている。
本報告書は参考文献リストなどを除くと正味5ページ程度の短いものだが、これを読むことによって様々なデータベースや論文などの存在を知ることができる。ある意味でナナメ読み効率の高い報告書と言える。
■報告書本文の入手先(PDF8ページ/約 1.0MB)
https://easac.eu/fileadmin/PDF_s/reports_statements/Extreme_Weather/EASAC_Extreme_Weather_2018_web_23March.pdf
注1) PDF で 28 ページあり、次の URL からダウンロードできる: https://easac.eu/fileadmin/PDF_s/reports_statements/Extreme_Weather/EASAC_report_Extreme_Weather_in_Europe_Nov13.pdf
注2) 本来は 2013 年の報告書を読んだ上で本報告書を読むべきであろうが、本連載の趣旨はあくまでも「ナナメ読み!」なので、元の報告書はあえて読まずにアップデートだけ拾ってみようと思う。
注3) マスムーブメントとは、物質がそれ自身に直接かかる重力によって斜面を移動する現象の総称であり、地すべりや急傾斜崩壊、土石流などが含まれる。
注4) NetCatSERVICE とはミュンヘン再保険(Munich Re)がオンラインで提供している、自然災害に関するデータベースサービスである。 http://natcatservice.munichre.com/
注5) 原文は次のとおり: However, such trends need to take into account socioeconomic developments that influence exposure to and reporting of natural hazards that result from climate variability.
注 6) データベースはコロラド大学に移転しているようであり、現在は次の URL となっている: http://floodobservatory.colorado.edu/
(了)
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