2018/03/05
安心、それが最大の敵だ

新政府軍、果敢な応戦
新政府軍側から見れば、局外中立撤廃の目に見える成果は、まず当時日本近海では最強クラスだった甲鉄艦ストーンウォール号の取得であった。アメリカ南北戦争中に南軍がフランスに発注した装甲砲艦である。南北戦争で南軍が敗れた後、幕府が購入を約束していたのだが、瓦解で買い手が消滅した。横浜港に繋留されたままだった。新政府が入手を希望したが、アメリカは局外中立を楯に取り引渡しを拒否した。中立撤廃によって、ようやく明治2年(1869)1月6日、譲渡契約が成立した。「敗北の構図」の一部である。
これで海上戦力は逆転した。また中立撤廃は、兵員輸送のための外国船チャーターも可能にした。3月26日、新政府艦隊は陸奥湾に到着した。青森に集結した陸戦力の総数は7000人余とされる。
4月6日、いよいよ新政府軍の渡海作戦が開始される。津軽半島の風波が収まるのを待ち、4月9日に先発隊1500人が上陸した地点は、榎本軍の意表を衝いて、渡島(おしま)半島西岸の日本海に面した乙部(江差の北)であった。この方面はまったく無防備だった。新政府軍は何ら抵抗も受けずに進攻した。二手に分かれて一手は同日中に江差を占領し、さらに海岸沿いの松前を目指した。その一部はまた分進して松前半島の付け根にある木古内方面に向う。もう一手は内陸の山地を抜けて二股口(現上磯郡)から箱館に直進する作戦であった。
戊辰戦争の最終幕、箱館戦争の火蓋が斬って落とされた。それから1カ月余り、海岸と山地の2方面で後世に語り伝えられる激戦が繰り広げられる。幕府歩兵隊もここを先途と勇壮に戦闘を展開した。
まず明治2年(1869)4月12~20日まで断続的に戦われた海岸の「木古内の戦闘」では、旧幕府軍の伝習隊・額兵隊・彰義隊が善戦して新政府軍の前進を阻んだ。ちょうどその頃、4月13~24日まで山地で続いた「二股口の戦闘」でも、伝習隊・衝鋒隊が奮戦して迫る敵を撃退した。新政府軍側は新しい兵器をどしどし惜しみなく投入したから、両戦闘とも日本の合戦史上いまだかつてない激闘になった。
彰義隊差図役だった丸毛利恒(まるも・としつね)の「北洲新話」(「箱館戦争史料集」)は戦闘の模様をこう伝える。
「木古内にては早天より敵、兵を潜め来り、大霧咫尺(しせ)を弁ぜざるに乗じ、忽然としてわが胸壁の下より発砲す。この時、額兵隊(4小隊)は山上の壁を守りしが、俄かに起ってこれと応戦す。また彰義隊の守りし砲台の下へ敵迫り来る。わが兵これを壁下に近づけ、大砲(十二斤柘榴弾)一発8人を倒す。大鳥圭介はこれを見て直ちに伝習兵一隊をして山腰をめぐり、兵を草中に散らしてその横を撃し、しかして彰義一小隊をして山を巡り、敵の後面より狙撃せしむ。両軍相戦うことほとんど五時暁(6~10時に至る)敵、遂に敗走。その兵追撃、また木古内に陣す。ここに二股方面にては、土方歳三、衝鋒隊・伝習歩兵隊、僅かに130余人を以て前日第3時より今朝第7時まで凡そ17時間の烈闘、わが兵ますます精神を励まして防戦す。因りて敵は空しく死傷のみ多くして遂に抜くこと能わず。怖れて退かんとす。わが兵急に追い撃ちてこれを破る。捕獲すこぶる有り。
わが費やす所の弾薬はほとんど3万5000余発に及ぶ。総じて彼の兵は多くスペンセール・スナイヅル等、元込の銃を用えり。しかしてわが兵はミニー銃を用いる」。両軍の薬きょうが山のように散乱していた。「敗北の構図」から脱したかに見えた。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/25
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方