表情が乏しいと言葉も伝わりにくい(写真は3月18日の記者会見。提供:日本金融通信社)

危機発生時にトップが何をどのように語るかは、ダメージからのリカバリーに重要な役割を果たします。新型コロナで私が注視してきたのは、総理のメッセージでした。安倍前総理も棒読みといった批判が多く、他国のリーダーと比較すると見劣りするといわれました。菅総理になってから半年。菅総理は安倍前総理にも増して分かりにくいといえます。いったい何がどう分かりにくく、どうすればよいのか、広報視点で解説します。

単調な読み方だと冷たく見える

スピーチで重要なのは、言葉に感情を乗せることです。菅総理はデジタル庁を設置するなど改革意欲があり、国民の食い扶持を確保することを政治信条とする弱者視点を持っている方だろうと思いますが、それがまったく伝わってきません。

理由は、表情がほとんど変わらないからです。3月5日の会見では「分かりやすい情報」「できる限りの支援」といった言葉に抑揚をつけるなど、ほんの少し工夫が見られましたが、全体的には不十分。この日の総理メッセージは、項目をあげると、次のとおりでした。

・全国の感染減少状況の説明と国民への感謝
・解除の基準を満たしているが鈍化傾向のため延長
・約束を果たせなかったことへの国民へのお詫び
・3月末までに3万の高齢者施設での検査実施
・大人数での会食を控えるお願い
・若者向けにSNSを活用するなど広報に力を入れる方針
・これまで3万7000ワクチン接種実施報告
・4月12日から高齢者接種実施予定
・変異種監視体制強化
・生活者や事業者への支援継続
・孤独や孤立の深刻化対応のための緊急支援

これらをあげた後、リバウンド阻止のために対策を徹底する決断をしたと語りました。締めくくりは「国民の皆様には、大変申し訳ない思いですが、皆さんの命と暮らしを守るために、そして、安心とにぎわいのある生活を取り戻すために、一層の御協力を心からお願い申し上げます」という言葉でした。

身振り手振りも交えて伝える努力(写真:写真AC)

全体を通して、メッセージは最初から最後まで起伏がなく、どこに一番の思いがあるのかがまったく不明。単調さは機械的で冷たい印象を相手に与えています。最後の緊急支援については心を込めてもよい部分。全体を同じトーンにするのではなく、抑揚やスピード、間、ボディランゲージでもっと工夫をしてほしいと思いました。

中でも私が一番の課題として見ているのが「目力」です。まぶた部分が多く、目は常に半開き、眉毛も動かさないため、目力がない。眉毛を動かして目を見開くだけでアピール力が高まり、伝わる力が増します。毎朝腹筋100回することを日課としているのであれば、まぶた、目、表情筋の運動も日課に入れてはどうかと思います。「温かさ」「力強さ」といったプラスの感情も全身を使って表現できるようになることを期待します。