米国における BCM の実態
2016 Continuity Insights: The 2016 Global Business Continuity Management (BCM) Program Benchmarking Study
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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米国の BCM 関連情報 Web サイト「Continuity Insights」(注 1)は 2017 年 8 月に、KPMG LLP(注 2)と共同で「The 2016 Global Business Continuity Management (BCM) Program Benchmarking Study」という報告書を発表した(以下「本報告書」と略記)。これは主に Continuity Insights の読者を対象として 2015 年 11 月から 2016 年 2 月にかけて実施された、オンラインでのアンケート調査に基づいており、349 名からの回答を集計した結果がまとめられたものである。なお、回答者の 65% は米国に本拠地を置く組織に所属している。
Continuity Insights と KPMG LLP は 2012 年にも同様の調査を行っており、その際の報告書を紙媒体の『リスク対策.com』で紹介させていただいた(注 3)(以下「前回報告書」と略記)。そこで今回は、前回報告書と比較しながら、本報告書に掲載されている調査結果の一部を紹介する。
図 1 は、BCM プログラムを導入した主目的を尋ねた結果である。設問における選択肢が前回報告書と同一ではないため単純比較はできないが、上位 2 位までは前回報告書の時と変わらない。しかしながら「事業活動の継続のため」が 84.2% から 71% に減少しているのに対して、「レピュテーション」が 39.7% から 45% に増加している。本連載の 11 月 24 日付けの記事(注 4)においても、海外でのレピュテーションに対する注目度について書かせていただいたが、本報告書の結果も、米国の BCM 関係者の間でのレピュテーションに対する問題意識の高まりを示唆しているように思われる。
また「政府の規制/コンプライアンス」が 40% で 3 位となっているが、前回報告書ではこれに最も近い選択肢である「連邦政府からの規制や法的要求」が 33.5% であった。4 位には「監査における指摘事項への対応」が 27% で続いている(前回報告書では 31.6% で同じく 4 位)。これらが日本企業において上位に上がってこないのと対照的である(注 5)。
この他に筆者が注目した設問は、「あなたの組織が BCM プログラムで参考にしている、事業継続に関する規格をリストアップしてください」という設問である。回答が最も多かったのは ISO 22301 (28.9%)で、これに NFPA1600 (11.3%)、FFIEC(6.3%)が続いている(注 6)。
これに関しては前回報告書から状況の変化が見られる。前回の調査の時点ではまだ ISO 22301 が発行されていなかったため、NFPA1600 が 46% でトップであり、これに英国規格 BS 25999-1 (27%)、BS 25999-2(26%)が続いていた。米国においても BCM 関係者の間で、ISO 22301 が普及してきたことが分かる。
本報告書は本連載で紹介している他の報告書類と異なり、文章による説明や論述がほとんどなく、47 問にわたる設問に対する回答の集計結果が淡々と並べられているので、英語に抵抗がある方にとっても比較的使いやすい報告書となっているのではないかと思う。何となくナナメ読みしつつデータを眺めてみてはいかがだろうか。
■ 報告書本文の入手先(PDF 20 ページ/約 2.0 MB)
https://continuityinsights.com/1577-2/
注 1) 米国の Advantage Business Media 社が運営している Web サイト。E メールによるニュースレターを発行しており、約 1 万 8000 人の読者を抱えている。 https://continuityinsights.com/
注 2) プロフェッショナル・サービスファーム KPMG の米国法人。 http://www.kpmg.com/us/
注 3) 『リスク対策.com』vol. 43(2014 年 5 月)p.86-89 「レジリエンスに関する世界の調査研究」第 2 回「米国における BCM の実態」
注 4) 「海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!」2017/11/24 掲載分「英国規格協会が提案する「組織レジリエンス」の指標」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4219
注 5) 例えば株式会社インターリスク総研では日本の上場企業を対象として、2005 年から 2016 年にかけて BCM に関する実態調査を実施しているが(http://www.irric.co.jp/reason/research/bcm/index.php)、BCM に取り組む契機として、これらに関連する選択肢が上位にランクされたことはない。
注 6) FFIEC とは Federal Financial Institutions Examination Council で、IT を中心とした BCP に関する参考書を公開している。
(了)
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