2014/07/25
誌面情報 vol44
気候変動、廃棄物、生物多様性、健康な暮らしなどに配慮
インタビュー▶ BSI Groupサステナビリティ規格パブリッシングマネージャー
アマンダ・カイリー氏
2012年に開催されたロンドンオリンピックには204の国と地域から選手、スタッフ、ボランティア合わせて約20万人が参加した。「持続可能なイベント」をビジョンに掲げ、「気候変動」「廃棄物」「生物多様性」「社会的一体性」「健康的な暮らし」を取り組むべき5大テーマとして設定した。両大会を運営したロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会(The London Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games=LOCOG)は、持続可能なイベントのためのマネジメント国際規格であるISO20121を2012年6月に取得し、大会運営に臨んだ。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、ロンドンから何を学ぶべきか。LOCOGのサステナビリティ・プロジェクトマネージャーを務めたアマンダ・カイリー氏(現BSIGroupサステナビリティ規格パブリッシングマネージャー)に、ロンドンオリンピック・パラリンピックにおけるISO20121と持続可能な取り組みについて聞いた。
ISO20121:イベント運営における環境影響の管理に加えて、その経済的、社会的影響についても管理することで、イベント産業の持続可能性(サステナビリティ)をサポートするためのマネジメトシステム。オリンピックのような国際イベンントから地方のお祭りまで、あらゆるタイプのイベントに適用が可能で、イベントに関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)によって活用される。イベントの主催者はもちろんのこと、イベント会場(ホテル、会議場、競技場など)、イベントに関わる施工業者、サプライヤーにとってもこの規格を活用するメッリトがある。英国においてロンドンオリンピックを見据え、BSI(英国規格協会)が開発に関わったBS8901に基づき策定された。 |
Q01. LOCOGがISO20121をどのように活用したのか教えてください。
LOCOGは、持続可能な取り組みを必要不可欠なアプローチとして、資材やサービス、労働力の調達に至るまで、環境や社会的な影響、経済的な評価などを徹底して行いました。持続可能性とは、単に環境への配慮だけを指す言葉ではありません。経済的な成功を求めつつ、社会的な責任を果たしながら、継続的に取り組めることが重要なポイントになります。
LOCOGは100カ所を超える会場と約20万カ所にものぼる現場の管理と運営を行い、そのすべてに持続可能性を追求しました。その予算は20億ポンド(約2500億円)になります。
2006年のLOCOG発足当初から、ISO20121の元となった英国規格のBS8901を導入し、持続可能な大会の運営に力を注いできました。最も重要なのは持続可能性の共通理解でした。LOCOGと直接関わったのは54のスポンサーと60のライセンシー、約600のサプライヤーです。NPOやNGO、地域コミュニティなども含め、参加したステークホルダー間のコミュニケーションを円滑に進め、持続可能性の共通理解のもと、具体的な目標を設定する点でISO20121は非常に有効でした。
Q02. 具体的な取り組みについて教えてください。
調達部門の「見える化」を実現しました。例えば食料部門では商品をどこで誰が生産し、加工、包装したのか、また選手に授与されるメダルも原料の採掘から製造までの全てのプロセスを追跡できるようにしました。サプライヤーが不法労働者を雇用していないか、障害者に対する取り組みや性別、人種や属性などの多様性を尊重しているかなどの点も調べました。
温室効果ガスの排出抑制のための取り組みとしては、観戦チケットに公共交通機関のフリーチケットをつけて利用を促し、表彰式で手渡された花束も、地域のサプライヤーが冷蔵せずに運ぶことでエネルギーの輸送コストを抑えました。生花ですから冷蔵なしの運搬には非常に苦労しました。オリンピックの象徴となる聖火台も北京オリンピックの5%ほどの重量、約16トンで作成し、大会中の燃焼も抑えていました。最大レベルで燃焼したのは開会式の45分間だけです。公式グッズのバッグもリサイクル原料を主としてつくられ、リサイクル、リユースを表記しました。ボランティアスタッフのユニフォームにも高い割合でリサイクル原料を使い、オリンピックとパラリンピックの両方で使えるリバーシブルデザインを採用し、障害のある方にもフィットするように工夫をこらしました。
Q03. LOCOGのほかにISO20121の認証を取得している機関や企業などを教えてください。
オリンピックで競技場や交通機関などの建設を担ったODAトランスポートが取得しています。また、ロンドンオリンピックの際にはセーリングの競技場にもなったウェイマス・アンド・ポートランド・ナショナルセイリングアカデミー、コカ・コーラや香川真司選手が所属するサッカーチームのマンチェスターユナイテッドなどが取得しています。
誌面情報 vol44の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/26
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方