BCM の実務者は気候変動リスクをどのようにとらえているだろうか?(出典: BCI Continuity Planning for Climate Change)

本連載では、BCM の専門家や実務者による非営利団体である BCI(注 1)による調査報告書を何度か紹介しているが、今回紹介する「Continuity Planning for Climate Change」(以下「本報告書」と略記)は、BCI のオランダ・ベルギー支部が、ドイツに本拠地を置く多国籍企業 Siemens (注 2)の協力を得て、独自に作成したものである。

本報告書は次のような構成となっている。これらのうち 2. は、外部の報告書や論文などの紹介や、専門家からの寄稿などで構成されており、気候変動への適応に関する理解を深めるために有益な内容となっている。また 3. は BCI オランダ・ベルギー支部の役員による寄稿で、事業継続の専門家や実務者に対する提言がまとめられている。4. の調査結果(および分析)が 6 ページであるのに対して、2. と 3. とを合わせると 18 ページ程度あり、BCI による従来の調査報告書と比べると、気候変動への適応に関する普及啓発を重視した構成となっていると言える。

1. エグゼクティブ・サマリー(調査結果の要約)
2. 気候変動:リスクまたは機会?行動するか否認するか?有識者のコメント
3. 事業継続のプロフェッショナルに対してどのような影響があるか
4. アンケート調査結果
5. 付録(調査結果の詳細)
6. 参考文献


アンケート調査は、主にベネルクス諸国を中心に実施され、88 の組織から回答を得ている(注 3)。うち 35% が中小企業からの回答である。回答者自身の役割(複数回答)については、59% が事業継続、47% がリスクマネジメント、37% が危機管理、31% が IT の災害復旧と回答されている。

なお、回答者の 51% が管理職層、36% がアナリスト、プランナー、専門家との事であり、経営層からの回答は 13% にとどまっている。したがって調査結果は主に、事業継続に関する実務レベルの方々の現状や考え方を反映していると考えてよいであろう。

調査結果の一例を図 1 に示す。これは気候変動に関する、回答者自身の考えや活動状況を尋ねたものであり、上の方の設問は意識に関する質問で、下に行くほど具体的な活動状況に関する質問となっている。全体的に、気候変動の問題に関して、長期的な計画に基づく活動の必要性は認識されているものの、なかなか実行に移せていない状況が反映されていると見て良いであろう。

恐らく BCI の会員が主な調査対象であると思われるので、このような問題に対する関心が比較的高い方々が回答していると推測できるが、それでも実際に行動に移すことができている組織が少ないという結果となっている。したがってベネルクス諸国における産業界全体における、気候変動に対する活動状況は、もっと低調であるのかもしれない。

図 1, 長期計画に対する関わり方に関する回答結果(回答数 69) (出典: BCI Continuity Planning for Climate Change)

気候変動は非常に長いスパンでの環境変化であり、ビジネスに対する影響の現れ方が分かりにくいこともあって、企業としてはどのような対応策を実行すべきか、またどの程度の資源を投入すべきか、判断が難しいであろう。しかしながら一方で、本報告書の前半部分で示されているように、気候変動への適応に関する問題意識は世界的に徐々に高まってきている。

BCI オランダ・ベルギー支部の役員の一人である Michael Crooymans 氏が寄稿の中で指摘しているとおり、気候変動の問題に取り組んでいくためには、リスクマネジメントや環境問題対策など様々な分野をまたいだ協働や、サプライヤーなど社外の関係者との協力関係が必要不可欠である。そのためには気候変動に関する知識や情報が幅広く共有されている必要があり、本報告書はそのような普及啓発に大いに寄与すると思われる。

読者の皆様の中で、もし気候変動に関する知識や情報が足りないとお感じの方がおられるならば、この分野に関する学習や情報収集を始める入り口として、本報告書をナナメ読みしてみることをお勧めしたい。

■ 報告書本文の入手先(PDF 52 ページ/約 5 MB)
http://www.thebci.org/index.php/download-the-bci-long-term-planning-report

注 1) BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。
http://www.thebci.org/

注 2) 実際はオランダの現地法人である Siemens Netherlands である。

注 3) ベネルクス諸国とはオランダ、ベルギー、ルクセンブルグのことで、本報告書のための調査では、回答者の 4 分の 3 がこれら 3 カ国からの回答となっている。