総合1位はノルウェー

総合スコアが最も高かったのは2019年版に続いてノルウェーで、2位はスイス(2019年版で3位)、3位がデンマーク(同2位)である。PDFでダウンロードできるサマリーによると、ノルウェーに関しては経済的生産性、安定した政治環境、汚職の少なさ、自然災害の状況、コーポレートガバナンスの状況などが高評価に貢献しているようである。スイスは前年から順位を一つ上げたが、特に政治的安定性、社会インフラの質、サプライチェーンの可視性が高評価につながっているという。デンマークは順位を一つ下げたものの、汚職の防止やサプライチェーンの可視化が特に優れていると指摘されている。

一方で総合的な評価が低かったのは、最も低い順に130位がハイチ、129位がベネズエラ、128位がエチオピアとなっている。これら3カ国の顔ぶれは2019年版から変わっていないが、128位と130位が入れ替わっている。エチオピアは2018年にエリトリアとの関係正常化が実現してから、汚職の防止と政治的安定性が改善されたと言及されている。ベネズエラとハイチの両国は自然災害に対する脆弱性が低評価の要因となっているようである。

各国間の比較を行う機能も2019年版から引き続き使えるようになっている。図2は多くの日本企業が進出しているアジア主要国の間で、直近5年間のスコアの状況を比較したものである(注2)。色の濃さは全体の中での大まかな位置を示しており、全体を 4分の1ずつに分けて、スコアが最も高い部分が最も濃い色となっている。中国は国土が広いため、自然災害リスクの観点から 3つのゾーンに分けられており、「CHINA ZONE 1」には強風の多い上海や山東省、広東省などが、「CHINA ZONE 2」には地震リスクが比較的高い四川省、河北省などが含まれている(注3)。

写真を拡大 図2. アジア各国間の直近5年間のスコアの比較(出典:2020 FM Global Resilience Index)

3つのカテゴリーを同時に展開できないため、図2では日本のメーカーが部品や原材料の調達先を検討する場面を想定して、「サプライチェーン」の内訳を展開させた状態を掲載しており、「経済面」と「リスクの質」については総合スコアに基づいた表示となっている。

こうして見ると、まずマレーシアで全体的に色が濃くなっているのが目を引くであろう。これは全てのカテゴリーにおいて、マレーシアが上位 50%に入っていることを示している(注4)。また、社会インフラの質やコーポレートガバナンスにおいて各国間でばらつきがあること、中国においてコーポレートガバナンスが改善傾向にあることなどが分かる。

前回も指摘させていただいた通り、このサイトに掲載されているデータからは大まかな状況や傾向しか分からないので、まずこのサイトで大まかな状況や全体感を把握した上で、より詳細な情報収集に進むというような使い方が有効であろう。

本調査のサマリーによると、このデータには新型コロナウイルスのパンデミックの影響は反映されていないようであるが、世界各国がパンデミックによるインパクトを受けた後に、どのように立ち直っていくかという過程において、このデータで表されているような各国のレジリエンスが寄与するであろう。本調査は恐らく今後も継続して行われると思うので、来年のデータにはパンデミックから立ち直る過程が観察され、スコアに反映されるかもしれない。今後も引き続き注目していきたいデータである。

■ 報告書本文の入手先:
https://www.fmglobal.co.uk/research-and-resources/tools-and-resources/resilienceindex
(調査結果はウェブサイト上で閲覧できるが、分析結果のサマリーや調査分析方法の詳細などがPDFファイルになっており、上のURLにアクセスしてページ右側の「RESILIENCE INDEX RESOURCES」という枠内の該当箇所をクリックするとダウンロードできる)

注1)それぞれ次の通り紹介させていただいた。
2018年7月31日掲載『第53回:各国のビジネス環境におけるリスクの総合的ランキング/2018 FM Global Resilience Index』
https://www.risktaisaku.com/articles/-/8448

2019年6月4日掲載『第71回:各国のビジネス環境におけるリスクの総合的ランキング2019年版/2019 FM Global Resilience Index』
https://www.risktaisaku.com/articles/-/17700

注2)シンガポールやフィリピンなども比較に加えたかったが、同時に比較できるのが8カ国までなので、今回は含めなかった。

注3)実際にマップを見ていただくとお分かりいただけると思うが、自然災害リスクの状況に応じて分けられているので、地理的に連続していない地域が同じゾーンにまとめられている。

注4)「経済面」と「リスクの質」の中に含まれる項目の一部が、上位50%に入っていないが、それぞれのカテゴリーごとの総合スコアとしては上位50%に入っている。