【危険物/テロ災害への対応~防護行動と通報~】

■危険要因とばく露経路

このシリーズで一貫して述べていることは、皆様の安全が第一であるということだ。特に危険物・テロ災害現場で市民救助隊が直接活動に携わることはあり得ない。しかし万が一、そのような場面に遭遇したときは適切な行動を取らなければ皆様の生命が危険にさらされてしまう。ここでは、あらかじめさまざまな危険要因を知り、危険物質に曝されたらどのようなルートで人体に入っていくのかという知識を得ることで、理論武装して頂きたい。まずは危険物・テロ災害現場で注意しなければならない危険要因を説明する。米国の消防学校ではこれをTRACEMというそれぞれの頭文字を取って教えている。

•Thermal(温度):高温または低温の危険性を示す。

•Radiological(放射線):医療機関、原子力発電所、または放射線関連テロにおいて注意しなければならない放射線の危険性を示す。

•Asphyxiation(窒息):文字通り「窒息」だが、2通りの窒息がある。1つは物理的に空気中の酸素が欠乏して起こる窒息と、もう1つは血液中の酸素が欠乏して起こる窒息である。

•Chemical(化学剤):化学剤の危険は大きく分けて2つある。“毒性”と“腐食性”だ。腐食性の危険は人間の皮膚を破壊し、金属や鉄などを腐食させる。毒性はばく露している期間と濃度によって危険度が異なる。

•Etiological(病原学的):微生物や食毒などが原因で病気になる危険性。例えば、最近(2014年8月∼)話題になっているエボラ出血熱をはじめ、炭ソ菌、ペスト、天然痘などに感染して死傷する病原学的な危険性を示す。

•Mechanical(物理的):物理的、機械的な危険性で爆発、破片、つまずき、転落などで死傷する力学的な危険性を示す“M”。 


また、危険物質にばく露した際のリスクの深刻さを推定するための指数が定められているので紹介しよう。これらのばく露指数は前述の安全データシート(Safety Data Sheet)の中で見ることができるので、覚えておきたい。

•ばく露限界(Exposure Limit):ばく露限界の数値は通常ppmやppbで定められる。仮に検知器で0.5%の表示を示した場合5000ppmということになる。

•半数致死量LD50(Lethal Dose):50%致死量、一定期間ばく露された一群の試験動物の半数を死亡させることが予想される物質の投与量。

•半数致死濃度LC50(Lethal Concentration):50%致死濃度、一定期間ばく露された一群の試験動物の半数を死亡させることが予想される物質の空気中の濃度。

PEL(Permissible ExposureLimit):許容ばく露限度(米国労働安全衛生局による許容濃度)、8時間、40時1日週間の繰り返し労働において作業者に対し有害な影響を及ぼさない時間加重平均濃度。

•TLV-TWA(Threshold Limit Value-Time-Weighted Average):米国産業衛生専門家会議によって設定された時間加重平均の許容濃度。8時間、40時間の繰り1日週返し労働において作業者に対し有害な影響を及ぼさない時間加重平均濃度。

•TLV-STEL(Threshold Limit Value-Short-Term Exposure-Limit):短時間ばく露限度(通常15分間の時間加重平均許容濃度)。

TLV-C(Threshold Limit Value-Ceiling):どのような環境下であろうが越えてはならない天井値。

•IDLH(Immediately Dangerous to Life and Health Values):生命および健康に直ちに危険な濃度限界、30分以上ばく露すると元の健康状態へ回復しない大気中有害物質の濃度限界。

ベクレル(Bq):放射性物質が放射線を出す能力を表す放射能の単位。

•グレイ(Gy):放射線のエネルギーがどれだけ物質に吸収されたのかを表す放射線の量に関する単位。

シーベルト(Sv):人が放射線を受けたときの影響の程度を表す放射線の量に関する単位。

•レントゲン(R):ガンマ線、ベータ線を計るときの標準単位で1000ミリレントゲンから1レントゲンの範囲で測定。

•壊変毎分(cpm):1壊変毎分は、放射性核種の壊変数が1分間に1の割合である放射能と定義される。国際単位系(SI)の放射能の単位であるベクレル(Bq)は壊変数が1秒間に1の割合と定義されているので、1ベクレル=60壊変毎分、1壊変毎分=(1/60)ベクレル=約0.0167ベクレルとなる。

•ラドRadiation absorbed dose(rad):吸収した放射線の総量(吸収線量)を表す古い形式の単位。単位当りの物質が放射線を吸収し発生したエネルギー(温度上昇)で計測する。1ラドは0.01J/kgに相当し、国際単位系では吸収線量はグレイ(Gy)で表す。グレイ=100ラドに相当1する。

•レムradiation equivalent man(rem):人体への影響度(被曝量もしくは線量当量)を表す古い形式の単位。人体が吸収した放射線量(単位、ラド)に放射線の種類ごとに定められた係数を乗じて算出する。国際単位系では線量当量はシーベルト(Sv)で表す。シーベルト=1レム0.01に相当する。

•ミリレムMillirem(mrem):上記のremの1000分の1の単位。

•ペーハー(pH)値:物質の腐食性を測る値で1から14の範囲で測定される。7を中性とし数値が低いと酸性、高いとアルカリ性が強くなる。

•下限爆発限界:可燃性ガスが空気または酸素と混合して着火によって爆発(燃焼)を起こす最低濃度を表す。

•上限爆発限界:可燃性ガスが空気と混合して着火によって爆発(燃焼)を起こす最高濃度。 


次に、危険物質にばく露するとどのようなルートで人体へ影響を及ぼすのか、4つのばく露経路を開設する。

①接触:危険物質が皮膚など人間の体の一部に接触し人体に吸収されるルート
②摂取:食物や水などを媒体として経口摂取するルート
吸入:呼吸器を通し肺から吸入するルート
注入:針やカニューレ※などを用い血液に直接注入させるルート 


これらの危険性から身を守るためには適切なPPE(個人用保護具)がなければならないが、一般市民あるいは市民救助隊レベルには、これらの適切なPPEは配備されていない。即ち、危険物テロ災害の徴候はSTOPサインと心得るべし!
※気管切開の際の空気の送排などの為に体内に挿入するパイプ状の医療器具

(後編へつづく)

(了)

参考文献
•総務省消防庁2014年7月付「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する中間答申」
•生物化学テロ災害時における消防機関が行う活動マニュアル、・東京法令出版
•NFPA472(National Fire Protection Association)Standard for Competence of Responders to Hazardous Materials/Weapons of Mass Destruction Incidents
•オクラホマ州立大学 消防業務エッセンシャルズ 第6改訂版 
•米国運輸省Emergency Response Guidebook(緊急時応急措置指針)
•危険物・テロ災害初動対応ガイドブック
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS