混乱を最低限に抑え、組織が機能的に働き、災害の被害を最小限に抑えるためには、チームとしての標準化されたルールが絶対的に必要になる。(画像:Pixabay)

10回に渡り連載してきたこのシリーズもいよいよ今回で最終章となる。この章では、筆者が考える民間目線での問題点を過去の連載シリーズと合わせてあぶりだすことで、これから日本が目指すべき防災・危機管理の姿に導いていきたい。

災害への準備が全般的に不足している

~心の準備と行動の準備の必要性~ 


本連載の第1章第2章では災害準備と災害心理学について紹介した。この2つの章で筆者が訴えたかったことを一言でまとめるとすれば、「心の準備と行動の準備を整えなさい」ということである。まず心の準備であるが、我々が目指すゴールは次の3点だ。

1. 災害時に人間が陥りやすいワナを理解すること。
2. 助ける人・助けられる人、双方のストレスを理解すること。
3. 災害時のストレスを軽減する方法を理解すること。 


これらのことが身に付くと災害時において各自が勇気を出して率先行動ができるようになると同時に、被災者やその家族をはじめ、救助をする側の人達に対しても、心に寄り添った行動ができるようになる。

韓国セオル号の沈没事件では、船内のアナウンスに惑わされた事や、さまざまな心のバイアスによって多くの命が失われてしまった。災害心理学を学んでいれば、もっと多くの命が助かったと思うと残念でならない。読者の皆様には、まず心のあり方が命を守る基礎になるということをしっかりと理解していただきたい。

行動の準備が整うと以下のことができるようになる。

1. 危険の種類を認識することができる。
2. 地域・人・健康・インフラへの影響を分析することができる。
3. 防護行動を理解し実践に結びつけることができる。
4. 防災・減災計画を立てることができる。
5. 訓練へ参加し、地域との関係を築くことができる。 


これらの平時からの事前準備を怠ってはならない。慶応義塾大学准教授の大木聖子先生が、地震による被害者は事前準備をしっかりとすることで100%ゼロにできると力説されているのも十分うなずける。

しかし災害は地震だけではない。あらゆる自然災害、人為的災害、技術災害と戦っていくためには、オールハザード対応が出来るための行動の準備をすることが重要なのである。本当に準備しなければならないものを、正確に認識し行動に移せるようにスキルを身に付けたい。