■セカンダリーアタック(2次攻撃)

テロ攻撃による現場では上記に挙げたあらゆる兵器を組み合わせて2次攻撃を仕掛けてくる可能性を常に考えるべきである。出場している部隊や現場に入る関係者などに時間差で被害を与え、進行中の現場をさらに混乱させパニックを引き起こすために取られる手段だ。通常、2次攻撃で使用される武器はパイプ、消火器、プロパン容器などを利用した即製爆弾(IED)が多いが、それらの武器はカモフラージュなどで隠されているので発見されにくくなっている。起爆装置は時間差で設定されていたり、無線や携帯電話などによる電波で起動するようにセットされていたりする。また起爆させる人間が現場付近で様子を伺いながら作動させるケースもある。

【危険物/テロ災害の分析と認識】

一般市民であっても国土をテロリストから守るためには、その責任の一旦を担っていることを自覚せねばならない。テロ攻撃が仕掛けられる前にその徴候を見たり、聞いたりした場合は躊躇せずに管轄の警察へ通報するべきである。テロリストも同じ人間である。テロを実行するにはそれなりの決心と計画が必要になるので、敵の行動パターンを知ることは強い抑止力につながる。次にテロリストがテロを実行するまでの8つのプロセスを紹介する。

1. 調査:ターゲットとなるエリアを綿密に監視し、分析調査を行う。時には録画したり行動をモニタリングするケースもある。
2. 誘発:より詳細な情報を得るためにメールや電話、時には一個人から情報を得ようと考える。
3. 警備体制確認:防犯上のシステムや警報の仕組みを分析し、確認する。セキュリティーのシステムがどれくらいの時間軸で突破できるかなどを詳細に調べる。
4. 資金計画:テロを実行するための資金的な裏づけ作業を行う。
5. 物資調達:テロに使用する武器をはじめ、移動手段や通信手段に用いるあらゆる資機材を調達する。
6. 偽装工作:ターゲットとなる組織や場所へのアクセスや情報を得るために偽装民間人になりすます。
7. リハーサル:実行前の練習としてリハーサルを行い、計画の精度を高める。
8. 実行:最終フェーズで実行体制に入る状態。 


必ずしも上記全てのプロセスを100%実施するケースばかりではないが、明らかに不信だと思われる人間やその行動を見抜く力も、ある程度の教育を受けることにより身に付けることが可能だ。また、武器を製造するための実験室のようなアジトも意外な場所に潜んでいたりする。上九一色村の第七サティアンのような大規模なサリン製造工場のようなものは稀(まれ)な例で、アパートやマンションの一室など、一般社会生活に紛れているケースもある。例えば、常に締め切った状態の部屋、窓にフィルムなどを貼って中の様子が分からないようにしている部屋、アンモニア臭が漂う部屋、監視カメラが付いている部屋、特定多数の人間が出入りしている部屋などは特に注意が必要だ。このような場所に気が付いたら、すぐに通報するべきである。

■テロ災害を示す特徴

爆発物を使用したテロはすぐに認識することが可能だが、生物剤や化学剤を使用したテロ攻撃はすぐに認知することが困難だ。しかし下記に掲げるような共通項目からテロ災害の可能性を疑うことができる。

• もやや霧が発生する時間帯や場所でないにも関わらず、それらが発生している。
• 実験器具やスプレー装置などの不審な物が似つかわしくない場所にある。
• 異常な臭気や原因不明の刺激感がある。
• 所有者の分からないパッケージ、箱、車輌などの存在がある(2010年5月ニューヨーク・タイムズスクエアで発生した車輌爆弾爆破未遂事件はエンジンがかかったままの無人車輌から煙が出ているのを発見した目撃者が不信に思い、警察へ一報を入れたため、爆弾処理班が作業中に多くの人は避難して被害を未然に防ぐことに成功した)。
• 梱包または包装してあるパッケージから漏えいしている(地下鉄サリン事件ではナイロン・ポリエチレン袋から液が漏れ出していた)。
• 動物、鳥、魚など同じ場所で大量の動物の死骸がある。
• 昆虫類がいなくなる。鳥の声がしなくなる。
• 異常な数の負傷者や死傷者がいる(皮膚の水ぶくれやぶつぶつ、吐き気、呼吸困難、痙攣、目の充血、紅斑など共通の症状がある)。
• 密閉された場所での病人がいる。
• 異常な環境が現れる(干ばつでもないのに草木や芝が枯れ、脱色している)。
• 異常な金属片やガラスが散乱している。
• 大量の有色蒸気が充満または噴出している。 


このような特徴は現場に居合わせた人間が視覚・聴覚・嗅覚を使って認識するのだが、一般市民はそれらに対する適切な訓練も防護装備も持ち合わせていないので、絶対に触れたりしてはならないし、いち早く現場から離れ、通報することが重要である(具体的な対応の方法は次号で解説する)。地下鉄サリン事件でも第一報は「地下鉄内で異臭、大量の病人」というものだった。このときに「テロ災害の可能性あり」と付け加えるだけで初動での対応が大きく変わっていたはずである。読者の皆様はすでにテロ災害の認識について基本的な知識を得ることができたので、的確な状況判断に基づく的確な通報が行えるだろう。

次号では、「第9章危険物/テロ災害対応(2)」として、一般市民従業員が危険物/テロ災害に遭遇した際、どのように物質を特定し、防護行動をとればよいのかについて解説する。

【参考文献】
• NFPA472 (National Fire Protection Association)Standard for Competence of Responders to Hazardous Materials/Weapons of Mass Destruction Incidents
• Hazmat/WMD Awareness/Operation Level,Texas Engineering Extension Service
消防業務エッセンシャルズ第6改訂版日本語版
• Emergency Response Guidebook(危険物・テロ災害初動対応ガイドブック)
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS

•AOAV Explosive Violence Monitor 2016

(了)