緊急事態宣言を発出。記者会見する安倍首相

新型コロナウイルスと緊急事態宣言

4月7日、新型コロナウイルスの感染が都市部で急速に拡大する事態を受けて、政府は東京や大阪など7都府県を対象に法律に基づく「緊急事態宣言」を行った。「接触8割削減」などを求める一方で、海外で見られるような『都市封鎖』を行うものではなく、公共交通機関など必要な経済社会サービスは可能な限り維持するとしている。目標達成を国民の自主的協力に求めているのが、海外との大きな違いだ。

「8割おじさん」こと西浦博教授(厚生労働省のクラスター対策班:北海道大学社会医学分野)の説明はこうだ。

「80%だったら診断されていない人も含めて感染者が100 人まで戻るまでは15日間、それに感染から発病、診断など目に見えるまでの時間が15日加わり、1か月間だという話をしました。それが、もし65パーセントだったら、感染者の数が減るまでに90日かかります。90日プラス15で105日かかるんです。あまりにも長くかかる」
2020/04/11 Buzz Feed

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura

正常化の偏見(正常性バイアス)

一方で、西浦教授らは海外の事例から、3月初めには政府にこのような説明をしていたという。遅くなればなるほど感染者、死者が増加し、医療崩壊のリスクが高まり、さらに社会経済に悪影響を与えるという専門家の切迫感が、決定に携わる政治家、官僚、そして国民に十分には伝わっていなかった。今となっては、もう少し早く緊急事態宣言及び対応策ができなかったのかという思いが強く残る。

実は、危機に際して大事な決定が遅れることはよくある。2019年4月10日、熊本地震、東日本大震災、大雨被害など、最近の大規模災害で被災した15人の市町村長が「災害時にトップがなすべきこと」いう提言を公表している。貴重な実体験に基づき、磨きに磨かれた提言で、トップの危機管理バイブルと言える。その中でも重要な項目について【】内に示し、筆者のコメントを加える。

【自然の脅威が目前に迫ったときには、勝負の大半がついている。大規模災害発生時の意思決定の困難さは、想像を絶する。平時の訓練と備えがなければ、危機への対処はほとんど失敗する】(下線部は筆者による)

人には誰もが「正常化の偏見(正常性バイアス)」がある。根拠もないのに自分は大丈夫だと思いこんで、リスクを過小評価する傾向である。トップが正常化の偏見にとらわれると部下もトップの思いを「忖度」して、結果として防災対策が軽視される。その結果「危機への対処はほとんど失敗する」のである。

【市区町村長の責任は重いが、危機への対処能力は限られている。他方で、市区町村長の意思決定を体系的・専門的に支援する仕組みは、整っていない

選挙で選ばれるトップが危機管理のプロであることは極めてまれであるし、支える職員もローテンション人事で異動するため専門性に乏しい。そこで、専門家、経験者がトップを支援する仕組みをつくることが極めて重要である。

判断の遅れは命取りになる。特に、初動の遅れは決定的である。何よりもまず、トップとして判断を早くすること。人の常として、事態を甘く見たいという心理が働き、判断が遅れがちになる】

「事態を甘く見たいという心理が働き」とはすなわち、正常化の偏見による。これによりトップの判断や対策が遅れた事例が後を絶たない。

【「命を守る」ということを最優先し、避難勧告等を躊躇してはならない。命が最優先。空振りを恐れてはならない。深夜暴風雨の中で避難勧告等を出すべきか悩みが深いが、危険が迫っていることを住民に伝えなければならない

ここで書かれている災害を新型コロナウイルス、市区町村長を政府、避難勧告を緊急事態宣言に置き換えれば、驚くほど当てはまるのではないか。