秩父・奥多摩から南東進

典型的でないこの大雪の特徴をさらに見る。

関東地方では、雪が降り始める前に雨が降っていた。降水が雨になるか雪になるかの判断目安となる気温は、大気の湿り具合や上空の気温によって異なるが、本事例のように、最初に雨が降っていて大気が十分湿っている場合は、プラス2度以下でみぞれ、1度以下で雪とみてよい。

そこで、当日の関東南部の気温分布を調べると、図4に示すように、3時に秩父・奥多摩方面にあったプラス2度以下の領域が、その後、東のち南東方向に突進し、5時には横浜市中区にある横浜地方気象台を過ぎ、6時には東京湾を越えて房総半島に上陸し、8時には太平洋に達した。これは、積乱雲の移動経路に対応していると考えられる。東京都心の気象庁本庁や、羽田空港は、突進する寒気の左側面に当たり、5時から6時の間にプラス2度の等温線が通過していた。

写真を拡大 図4 2℃等温線の南東進(1998年3月1日3時~8時、等温線の西側が低温)

図5は1日0時から9時までの降雪量分布である。本事例では、突進する寒気の左側面での降雪量が最も多く、東京23区から千葉にかけての狭い範囲で、3~5センチメートルの降雪が観測された。

写真を拡大 図5 1998年3月1日0時~9時の降雪の深さ

上空寒気の入り鼻

積乱雲は強い対流によって発生する。強い対流が生じるのは、大気の状態が不安定なときである。「大気の状態が不安定」とは、対流圏の下部が暖かく(軽く)、中・上部が冷たく(重く)なって、大気の鉛直運動(対流)が起きやすい状態をいう。

では、本事例において大気の状態を不安定にした要因は何か。それは、寒気を伴った上空の低気圧である。対流圏中~上部に現れる、寒気を伴った低気圧を「寒冷渦」(かんれいうず)または「寒冷低気圧」という。寒冷渦は、特にその南東象限に不安定な大気成層を形成しやすく、そこは雷雨や集中豪雨、降雹、竜巻などの激しい現象に警戒が必要な危険領域である。