不意に襲った大雪―3月の気象災害―
予測が難しい「寒冷渦」による降雪

永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2020/03/02
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
1998年3月1日(日)の朝、東京は突然の大雪に見舞われた。と言っても、都心の降雪量は5センチメートルに過ぎないのだが、事前に予測されなかったこともあって、交通は大混乱に陥った。羽田空港では航空機の離着陸ができず、約270便が欠航した。首都圏の鉄道各線の運行にも大きな影響があった。
この降雪は予測の難しいものであった。早春の日曜日の朝に起こったこの事例を振り返り、雪に弱い東京の降雪予想について考察してみる。
この時、筆者は気象庁本庁で、関東甲信ならびに東京地方の予報・警報を担当しており、前日の夕方から夜勤の当番中であった。未明からの資料分析をほぼ終え、まもなく発表する天気予報の最終確認をしていた午前4時20分、横浜地方気象台から緊急電話が入った。雪が降り始めたとのことであった。一瞬、耳を疑った。関東地方は前夜から雨が降っていたが、それが雪になることは想定していなかった。いったい何が起こっているのか、すぐには理解できなかった。
今何が起きているのかが分からないとき、予報官は途方に暮れる。現在位置を知らずして、どこへ行こうかと考えるようなものだからだ。しかし、決められた時刻には何らかの予報を発表しなければならない。「分かりません」では済まされないのだ。
横浜から電話を受けた時点で、気象庁本庁のある東京都心(大手町)の気温はプラス6度、まだ雨であった。天気予報の発表時刻(午前5時)が迫っており、考えている余裕はない。とりあえず、未明からの資料分析によって導かれた天気予報をそのまま発表した。
やがて、東京都心でも雪になった。こんなはずではない、と思っても、現実に雪は降っている。じきに雨に変わるだろうと思いたいが、その確証もない。そのうちに、濡れていた地面は白く変わり、雪が積もり始めた。雷鳴も確認された。やむなく、大雪注意報の発表に踏み切った。完全な「負け戦(いくさ)」である。「負け戦」とは、かつて筆者の上司であった故・倉嶋厚氏(元鹿児島地方気象台長、気象キャスター)が使っていた表現で、事前に予測できず後追いで警報や注意報を発表することである。それは、予報官にとって「敗北」を意味していた。
警報や注意報は、事前に発表されてこそ意味がある。後追いでの発表は、要するに出し遅れということで、何の役にも立たない。しかし、現実には予測の難しい気象現象があり、警報・注意報の発表が現象の発生とほぼ同時になることや、後追いになってしまうことがある。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/18
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方