気候変動に対してレジリエントな国はどこ?
ノートルダム気候変動適応指標(ND-GAIN)
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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本サイトの読者の多くは、防災・減災、BCM(事業継続マネジメント)、危機管理といった観点から自然災害に対する関心が高いと思われるが、一方で「気候変動への適応(adaptation to climate change)」という観点から自然災害を研究しておられる方々も多い。
気候変動への適応とは、地球温暖化に代表されるような気候変動を踏まえて、それらに関連するリスクに備えたり、気候変動を前提として活動のしかたや場所を変えていくことであり、温室効果ガスの排出削減などといった「気候変動の緩和(mitigation)」とともに、世界的に問題意識が高まっている(注 1)。したがって、この分野の研究成果からも自然災害に関して多くの情報や知見を得られる。
そこで今回はそのような研究成果の中から、「ノートルダム気候変動適応指標」(Notre Dame Global Adaptation Index)を紹介する。これは、米国にあるノートルダム大学で気候変動に関する普及啓発に取り組んでいる、Notre Dame Global Adaptation Initiative という研究組織(略称 ND-GAIN)が作成しているデータベースで、世界 192 カ国を気候変動に対する脆弱性と準備状況の観点から評価して公開している。Web サイト(http://index.gain.org/)にアクセスすると、現状最新版である 2015 年の時点での評価結果を、地図、ランキング、マトリックスの三通りの形で見ることができる。
図 1 は総合ランキング表示で見た上位 5 位である(ちなみに日本は 17 位)。総合ランキングに用いられているスコアは、気候変動(およびそれに関連する自然災害)に対する脆弱性(vulnerability)と準備状況(readiness)の二つの観点から算出されており、これらはそれぞれ次のような指標を含んでいる。
- 脆弱性(食糧、水、健康・保健、エコシステム、居住環境、エネルギーなどのインフラ)
- 準備状況(経済およびビジネス環境、制度や規制の整備状況、政治的安定性、社会的不公正、ICT 環境、教育など)
なお図 1 で「VULNERABILITY」や「READINESS」のタブをクリックすると、それぞれの観点による評価結果のランキングが表示されるようになっている。
また図 2 は、縦軸に脆弱性を、横軸に準備状況をとって 2015 年の時点での各国の状況をマトリックス表示にしたものである(どの国を色付きで表示するかは自分で指定できる)。図の下端で年を選べばその時点での状況を見ることができ、1996 年を選択すると図 3 のようになる。こうして比較してみると、この 20 年間で各国の準備状況がどのくらい進んだかがよく分かる。シンガポールのように急速に向上した国もあれば、タイのように変化が少ない国もある。
ランキング表示で国名をクリックすると、各指標ごとの変化も見られるようになっている。例えばシンガポールについては、制度や規制の整備状況や、ICT 環境、イノベーションなどの向上が評価結果に寄与していることが分かる。
さらにこのデータベースについて特筆すべきなのは、評価方法やデータが全て公開されていることである。データベースに格納されているデータは 20 年分をまとめてテキストデータ(CSV ファイル)でダウンロードできる。また評価にあたって収集しているデータの情報源や計算方法も技術文書として公開されている(これだけで 46 ページもある)(注 2)。したがって単に評価結果のスコアやランキングを見るだけでなく、その理由や背景まで遡って知ることができる。
このデータベースを BCM の実務としての観点からみると、海外のサプライヤから部品や材料を調達する場合や、生産・物流拠点を海外に設ける場合などに、相手国の自然災害リスクを把握するために活用できるのではないだろうか。
注 1)かつて紙媒体の『リスク対策.com』2015 年 5 月発行 vol.49 で紹介させていただいた、国連防災戦略事務局の「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」や、同年 11 月発行 vol.52 で紹介させていただいた、世界経済フォーラムの「Beyond Supply Chains - Empowering Responsible Value Chain」も、気候変動への適応に関するデータや具体例などを含んでいる。
注 2)Chen, C. 他 (2015)「University of Notre Dame Global Adaptation Index - Country Index Technical Report」
(了)
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