2020/01/31
危機発生時における広報の鉄則
勝つための記者会見
日本ではリークを連発する検察という権力との戦いになりますので、メディア戦略は綱渡り。冴えない広報の印象でした。日本ではPR会社がついていなかったように見えます。それと比較すると、今回はフランスのPR会社の仕切り。彼一人の力というよりは、PR会社の力を見せつけた事例ともいえます。メディアの選定、時間配分、全体の組み立て、よく考えられており、プロの力を感じました。
質疑応答は、アラビア語、フランス語、ポルトガル語、英語が飛び交いましたが、すべての言語でゴーン氏は回答しました。それだけで有能であることをアピールする効果はあったと感じます。質問さばきも見事で、追加質問をさせずに「次の質問」「次はあなた」と、どんどん回していくことで場を支配していました。
ゴーン氏と親しい記者のみ集められたと報じられていますが、厳しい質問もありました。「日本で違法行為をしたからここに至る事態になったのでは」「レバノンは汚職まみれの国。この国で公正な司法制度があるとみなされていない。ここで本当に汚名返上ができるのか」「ルノーについて思うことをコメントしてほしい」
これに対するゴーン氏の回答は「検察は私より10倍違法行為している。情報漏洩している。日本のジャーナリストはみな検察から情報もらったといっている」「レバノンには有能な人がいる。腐敗で真っ先に浮かぶのはレバノンではない」「今日のテーマは日本のみ。ルノーについては語らない」。反論、ずらす、テーマ制限と、巧みでした。ネタバレですが、お手本のような回答で、メディアトレーニングの成果は見事に出ていました。
戦略的広報の手段
一方、日本の検察は、逮捕の時からずっと特定メディアに情報を提供するというリークを続けてきました。さすがの私もこれは卑怯だと感じざるを得ませんでした。リークではなく、海外メディアも招いてきちんと会見を開くべきだったのではないかと思います。そうすれば国際世論へのアピールもできたはずです。
しかし彼らが公式会見をしたのは、ゴーン氏のレバノンでの会見後。森法相が個別の案件に関して会見をするのは異例のことでした。
もちろん、こんな事態を想定したマニュアルは存在しなかっただろうと思いますが、記者会見を行ったのは、ゴーン氏に対して反論するため、世界に対して日本の正当性を主張するためです。組織の危機、日本の司法制度への危機感を持ったから行ったのだといえます。ここでもし見解文をウェブに掲載するだけであれば、インパクトは弱く、世界に向けてのメッセージにならないと判断したのでしょう。
ゴーン氏は自分の評判を守るため、検察は組織を守るため、それぞれ記者会見をやったことが分かります。危機時も攻めの広報として記者会見をする選択もありでしょう。今後は記者会見による公開裁判になっていくのかもしれません。評判を守るためだけでなく、世界のメディアを巻き込み、勝つための記者会見、メディア戦略が展開される可能性があります。
(了)
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