♪ 雪がとけて 川になって 流れていきます ♪
♪ つくしの子が はずかしげに 顔をだします ♪
♪ もうすぐ春ですねえ ちょっと気どってみませんか ♪

これは、筆者と同年代の人には懐かしい、女子アイドルグループ・キャンディーズの1976年のヒット曲「春一番」の歌詞である。

「春一番」は春先に最初に吹く強い南風をいう。「春一番」は気象用語だが、この言葉を多くの国民に普及させたのは、上記のヒット曲であった。春先の季節感と、人生の春のさわやかさを、同時にこの言葉に感じる人も多いことだろう。しかし、気象予報の立場からいうと、「春一番」には災害の匂いがつきまとう。

キャンディーズの曲がヒットした翌々年の1978年2月28日、「春一番」の吹く東京で、荒川に架かる橋梁を走行中の10両編成の電車の後部3両が強風のため脱線、うち2両が横転して23人が負傷する事故が起きた。地下鉄東西線列車横転事故である。本稿では、こうした「春一番」の危険な側面に焦点を当てる。