2悪質性によっては触れる可能性のある法律

しかし、野次馬の悪質性や災害現場における行動内容によっては以下の法律に触れる可能性はある。

ア 消火妨害罪(刑法第114条)
「火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した者は、1年以上10年以下の懲役に処する」とされている。

ただ、同条の適用は火災現場に限られ、例えば救急の現場で撮影した場合には適用がないこと、また無断撮影が消火を妨害するほど悪質でなければならないこと、先例上「その他の方法」とは消防車の到着を障害物で妨害する場合や私人の消火活動を暴行脅迫を用いて妨害する場合、破壊消防に抵抗する場合など悪質な場合に限られていることなどから適用される場合が限定されてしまい、抑止力としては非常に不十分との欠点がある。

イ 公務執行妨害罪(刑法95条)
「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされている。

ただ、公務員に対して暴行または脅迫を加えたことが条件になっているため、単に野次馬的に撮影している場合には適用されない。そのため、やはり抑止力としては非常に不十分との欠点がある。

ウ 不法行為(民法709条)
民事上は被害者のプライバシー権や肖像権の侵害を理由に不法行為(民法709条)が成立する可能性がある。

ただこれは、後日撮影をされた被害者から撮影者に対して損害賠償請求が可能になるだけであるため、現場で現実に職務を妨害されている消防職員の方のために役に立つものではない。

なお、被害者からの撮影者に対する損害賠償請求自体も撮影者の身元の把握が困難なこと、勝訴しても日本の場合賠償額がわずか(おそらく多くても数十万円程度)であることから現実的ではない。そのため、やはり抑止力としては非常に不十分との欠点がある。

エ 応急消火協力義務違反(消防法25条)
「火災の現場附近に在る者は、(中略)消火若しくは延焼の防止又は人命の救助に協力しなければならない」とされている。

しかし、同法の適用は火災現場に限られる上、道徳的規定にすぎないとされており、違反しても制裁がない。そのため、やはり抑止力としては非常に不十分との欠点がある。