ウエストナイル熱の発生は世界中で起きている

ウエストナイルウイルスは、最初にウイルスが発見されたアフリカのみならず、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジア、北米など地球規模で広く分布しています(図1)。特に注目されているのがアメリカでの発生です。次の項で紹介しますが、1999年、ウエストナイルウイルス感染病の発生がニューヨーク市などの大西洋に面したアメリカ東海岸地域の大都会で始まりました。ウイルスは、主として鳥類によってアメリカ中央部諸州さらには太平洋に面する西部諸州にまで運ばれ、本病の発生は拡大しました。さらには、ウイルスは国境を越えて、カナダからカリブ海諸国、メキシコ、ベネズエラにまで広範に拡散しています。

注目されるのは、馬も日本脳炎ウイルスに対してと同様、ウエストナイルウイルスに対する感受性が高いことです。馬のウエストナイル熱は、モロッコ、イタリア、アメリカ、フランスなどでも流行しています。   

アメリカにおけるウエストナイル熱の発生と拡散

1999年8月から、ニューヨーク市内および周辺地域で、アメリカでの初のウエストナイル熱、ウエストナイル脳炎が突然発生しましたが、同地域で本病の流行も起きたため世界に衝撃を与えました。分離されたウイルスは、1998年にイスラエルで分離されたウイルス株に類似することが、遺伝子解析から明らかになっています。

ウイルスを体内に保有していた蚊が、貨物にまぎれて飛行機の中に潜入して中東からニューヨークまで運ばれてしまったために、ウイルスが中東からアメリカに侵入したと考えられています。ウエストナイルウイルスを保有した蚊は、ニューヨークの空港に到着後飛行機内から逃げ出し、ニューヨーク市内に移動して、市内に張り巡らされている下水道に潜り込み、そこで繁殖して、ニューヨーク市内に生息している鳥類や人に、ウイルスを感染させたと考えられています。

ニューヨーク市内では62名の患者が出て、そのうち59名が入院し、7名が死亡しました。同時に、ニューヨーク市内で生息していた多数のカラスも、このウイルスに感染して死亡し、ロングアイランドでは25頭の馬がウエストナイル脳炎を発症しています。

翌年の2000年には、ウエストナイルウイルス感染病の発生は12の州に拡大し、2001年には流行はさらに27州に拡大し、南部のフロリダ州までウイルスは拡散しています。2002年には発生が一気に40州にまで及び、3775名もの患者が出て、そのうち216名が死亡しました。2003年の全米のウエストナイルウイルス感染・発病者数は約1万名に達しています。

2006年にはアメリカ全体で4269名の発病事例があり、このうち34%は重症のウエストナイル髄膜炎・脳炎病例、61%が軽症のウエストナイル熱病例と報告されています。一般的にはウエストナイル髄膜炎・脳炎罹患者の死亡率は10%とされています。アメリカでの死亡率は50歳以上で高かったといわれています。
ウエストナイルウイルスの汚染が国全体に広がってしまったアメリカでは、ウエストナイルウイルス感染病は毎年発生しています(図2)。輸血を介したウエストナイルウイルスの人への感染例の報告も出されています。

アメリカでは、アカイエカの他に13種の蚊からウエストナイルウイルスが分離されています。鳥類では、カラス、カケス類、スズメ、タカ、ハトからウイルスが分離されています。

国境を越えてカナダ、メキシコにもウイルスは拡散しました。2007年には、カナダで2000名以上の発病報告が出されています。この頃、ウイルスは北米大陸から極東ロシアにまで鳥類によって拡散した、という報道があったことを筆者は記憶しています。

日本でも、2005年にプエルトリコ、ロサンゼルスへ旅行した人が帰国後に発病し、ウエストナイル熱と診断された事例がありました。毎年多数の人が海外渡航すること、日本国内にウエストナイルウイルスを媒介できる蚊が生息していることなどを考えると、近い将来、日本でもウエストナイルウイルスが国外から侵入して、ウエストナイル熱発生が起きる危険性のあることを考えておく必要があります。