世界の多くの国々で問題となっているウエストナイル熱やウエストナイル脳炎の病原体であるウエストナイルウイルスは、1937年にアフリカ・ウガンダの西ナイル地方で発熱していた女性から初めて分離されました。このウイルスは、日本脳炎ウイルスに極めて近いウイルスです。しかし、豚が重要なウイルス増幅動物となっている日本脳炎ウイルスと異なり、ウエストナイルウイルスは元々鳥類と蚊との間で感染サイクルが維持されていたウイルスです。その感染サイクルに人や馬が入り込んだために、主として蚊を介して人や馬が感染し、発熱や重症の脳炎を引き起こすのです。
幸い、日本国内でウエストナイルウイルスに感染した事例は認められていませんが、以前には発生のなかったヨーロッパや北米などで、1990年代中ごろからウエストナイルウイルス感染病の流行が始まり、現在でも続いています。新興感染症・輸入感染症として特に注意の必要な、感染症新法では四類感染症に分類されている人獣共通感染病です。
ウエストナイル熱は鳥類によって流行が拡散される
人は、主に蚊(イエカ、ヤブカなど60種類以上の蚊が該当)に刺されてウエストナイルウイルスに感染し、ウエストナイル熱やウエストナイル脳炎などに罹患(りかん)します。ウエストナイルウイルスに近縁な日本脳炎ウイルスは、水田で繁殖するコガタアカイエカと豚との間で成立している感染サイクルにより維持されています。すなわち、農村が日本脳炎ウイルス増殖の主な場になっています。それに反して、ウエストナイルウイルス感染病の場合は、都会に生息するカラス、スズメやハトなどの野鳥と蚊の間でウイルスの感染サイクルが成立しているため、都市部での発生も多いという特徴があります。
注目されるのは、300種類もの鳥類がウエストナイルウイルスの宿主になっており、ウイルスがさまざまな種類の鳥類によって広範に運ばれ、多くの地域に分布していることです。
このウイルスは、人から人への直接的な感染を起こさないとされていますが、輸血、臓器移植、母乳を介した人から人への感染の報告があることは注目されます。
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方