1999 年に茨城県東海村でJCO 臨界事故が起きたときは、茨城県内でものすごくうわさが広まりました。「宿泊を拒否された」「『汚染車』と書かれた」「浴衣を持って帰ってくれと言われた」「土産物に触るなと言われた」「婚約破棄された人がいる」といううわさです。けれどこの話をしていたのは東海村の人や茨城県の人だけです。他の県ではこれらのうわさはほとんど確認できませんでした。なぜなら、2カ月もたつとJCOの臨海事故が報道されなくなり、話題にすらのぼらなくなったからです。災害、環境汚染、事件・事故などについて被災地周辺では関心が高いので、うわさが広まる。風評被害は関心の低い人が「単に危ない」と思って商品を買わないことで発生します。これが風評被害とうわさの大きな違いです。うわさは不安だし関心があるがゆえにコミュニケーションが喚起され、広まります。災害の時にものすごく様々なうわさが広がるのは、みんな不安、かつ情報がなく、関心が高いからです。JCO臨界事故で東海村はずっと不安だったわけです。けれどもそれ以外の地域では、うわさすらなくテレビとかで見た悪いイメージが残っているだけです。関心は低いから、うわさにすらなりません。危なそうというイメージで買わなかったりするわけです。これが風評被害とうわさの違いになります。

風評被害の原因

1990 年代後半に風評被害という言葉が市民権を得るようになり、2000 年代には企業でも風評被害という言葉が扱われるようになりました。当時は不況で生命保険会社や証券会社が潰れ、東洋経済や日経ニュースなどビジネス雑誌で書かれた「危ない企業リスト」という倒産の可能性がある企業のランキングが話題になった時期です。これが風評の発信源として問題になっていったのが2000年代の初頭です。2002 年にペイオフ解禁になると銀行が潰れるかもしれないとささやかれ、金融庁の特別検査が入るだけで「あの銀行は危ないんじゃないか」と思われ、それだけで預金が流出してしまうケースもありました。これは金融庁発の風評被害として問題になりました。

また、風評被害の例としてわかりやすいものはテロです。米国で起きた9.11の影響を受けたのが沖縄の観光。沖縄に米国軍の基地がありますが警備もしていました。けれども文科省が「沖縄に修学旅行に行くときは、注意をしなさい」と全国の教育委員会に伝えました。するとその年の沖縄の修学旅行は、ほぼ全てキャンセルになりました。