2016/09/28
誌面情報 vol56
正しい理解で不安は和らぐ
もともと風評被害は安全なときに使われると話しました。東日本大震災で福島第一原子力発電所の事故が発生し、大量の放射性物質が飛散しているような状況ではそもそもとして風評被害というような状況ではないのです。ただ、ある程度時間が経過し、土壌や空間線量の測定結果が積み重ねられ、管理された圃場でつくられた農産物からほぼ検出されなくなったと実績が積み重なってきたからこそ、現在は「風評被害」が問題だということができるわけです。
とはいえ、多くの方が「安全にもかかわらず経済的被害が生じる」ことを風評被害と捉えている本質は変わりません。震災後、暫定規制値、基準値以下の経済被害は「いわゆる風評被害」とされ、賠償されています。しかし、「放射能は危ない」と考える人の中には、これを風評被害ではないという言い方をする人もいます。「風評被害じゃなく実害だ」というわけです。けど、この場合もの言い方も「安全でない」から実害だという以上は、「安全にもかかわらず被害が生じる」ことを風評被害と捉えていることになります。ですから風評の前提が「安全」だということは理解されているわけです。
東日本大震災から時間がたって、福島産の食品への消費行動は変化しています。福島県内の人の福島産に対する抵抗感は減ってきています。それにはちゃんとした理由があります。放射性物質の検査をしっかりと実施しているからです。福島県内では、新聞に空間線量、農産物の検査結果が常に掲載されています。事実をきちんと伝えることによって不安感を減らすことができるのです。けれど県外の
人は事実を知らない。福島産の米は全量全袋検査が行われているのを知っている人が県内では9 割ですが県外の人は5 割しか知りません。この検査体制などの事実が伝わってないことが、福島県の風評被害の解消の大きなボトルネックになっているのです。
今、福島県内で問題になっているのは、その先の課題です。食品の安全性が科学的に証明されてきているので検査をやめるタイミングややり方が議論されはじめています。税金と賠償金で賄われているため、「安全である」ことがわかっているのですから、この論理も間違っているわけではありません。ただ、安全であっても安全性が周知されず、震災後、他県の商品に「棚」を取られてマーケットが回復していない状況なのに、というところが問題です。
誌面情報 vol56の他の記事
- 組織の風評被害対策アンケート
- 企業の魅力度が風評に影響する
- 不祥事対応における風評発生メカニズム
- 被害のパターンを見極めることが大切
- 風評マネジメントで観光を立て直す
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方