2019/09/06
知られていない感染病の脅威
発生地域
北緯15 度と南緯15 度に挟まれたアフリカの熱帯地方に黄熱ウイルスは常在しています。一方、中米の熱帯地方では、北はパナマから南緯15 度に至るまでウイルスは分布しています(図)。特にアマゾン川流域の熱帯雨林に接した国々では限定された地域での流行が起きており、毎年のように黄熱患者が発生しています。黄熱非発生国からの旅行者の感染事例も散見されます。患者は、南米とアフリカを合わせて年間約20万人を数え、雨季に発生が多くなります。アジアと太平洋地域での黄熱発生はありませんが、少なくとも都市部には、黄熱ウイルスを媒介する可能性のある蚊が生息しており、黄熱の発生が危惧される地域もあるようです。
病原体
黄熱は、日本脳炎と近縁のウイルスによって引き起こされます。黄熱ウイルスの主な宿主はサルと人です。アフリカでは主にアフリカミドリザルが感染しますが、中南米では、リスザル、マーモセット、ホエザル、クモザルなど多種類のサルが感染して発病します。発病したサルの死亡率は高いといわれています。黄熱ウイルスを媒介するネッタイシマカは、現在、日本国内には生息していません。
症状および診断
黄熱ウイルスに感染しても多くの場合、症状は発現しません(不顕性感染)。ウイルスの感染を受けて発病する場合、発病するまでの潜伏期は通常3〜6日です。実験的に感染させた場合、10〜13日という長い潜伏期を示した成績も出されています。
発熱と頭痛が突然出現し、鼻カタル症状のない点以外はインフルエンザに類似する症状で、悪心・おう吐、結膜充血、タンパク尿などを伴うこともありますが、1〜3日で回復します(軽症黄熱)。
一方、重症の黄熱の場合、発病は頭痛、眩暈(めまい)、高熱で突然始まり、第2病日までにはファゲットの徴候(高熱にもかかわらず脈拍数は分あたり48〜52の徐脈)が現われます。黄熱の典型的な症状は、 黄疸、出血(鼻出血、歯肉出血、下血、子宮出血)、タンパク尿(高度のタンパク尿であっても浮腫・腹水貯留を来すことはまれ)です。その他の症状として、おう吐、結膜充血、顔面紅潮、せん妄(軽度から中程度までの意識水準の低下が起こり、時間や場所が分からない、睡眠リズムが崩れる、まとまりのない言動や独り言を話す、注意力や思考力が低下する、などの症状がみられる状態)などがあります。
上記の症状が患者に認められれば黄熱が疑われます。さらに、患者の旅行場所と旅行日、旅行中の活動も予備的な診断の根拠になります。それでも、患者からのウイルスの検出が診断には最も重要になります。ウイルス分離には、発病後3日以内に採取された血液検体が最適です。検体を蚊の培養細胞に接種するか、あるいは遺伝子を検出するという方法が用いられます。血清学的検査としてウイルス中和試験などが用いられますが、ウイルス中和試験は判定に時間がかかる(約1週間)のが欠点です。
治療・予防
根本的な治療法はなく、対症療法だけが実施されます。従って、ワクチン接種による予防が最も重要になります。現在使用されている黄熱ワクチンは、1927 年にマックス・テイラー医師が、患者から分離された黄熱ウイルスを種々の培養細胞で頻回継代し、最終的に鶏胎児胚細胞で増殖させて減毒することにより作成された生ワクチンです。
日本国内でも接種を受けることができます。国内で黄熱ワクチンの接種が行われている施設は、厚生労働省各検疫所、国立仙台病院、日本検疫協会横浜および東京診療所です。
黄熱ウイルスの汚染地域が存在する国に入国する時に、ワクチンの接種証明書(イエローカード)の提示を求められることがあります。渡航前に、ワクチン接種が要求される国に関する情報について、検疫所に問い合わせることをお勧めします。
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
-
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
-
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/17
-
-
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方