西アフリカでの医療従事者の犠牲と医療対策の改善

2014年初めに始まった西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行は、ギニア、リベリア、シエラレオネ3カ国を中心に猖獗(しょうけつ)を極めました。発病者数2万8616名、うち死者数1万1310名のおびただしい数となりましたが、驚くべきことに、診療にあたった医師、看護師などの医療従事者865名が発病し、504名(死亡率58.3パーセント)もの人が亡くなっています。患者の治療に尽くした医療従事者がこれだけ多く犠牲となった感染症の流行は、これまで経験されていません。

アメリカ、スペイン、イギリス、イタリアでも、アフリカからの入国者(医療従事者を含む)が発病していますが、患者の治療にあたった医療従事者も発病したという事例が発生しています。ただし、これらの国ではウイルスの外部への飛散は起きていません。

世界保健機関(WHO)は、国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)を立ち上げ、患者の隔離と治療、疫学調査、安全な埋葬、エボラに関する社会啓発などの分野からの取り組みを始めました。アフリカ現地では、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米、アジア出身の多様な国際コンサルタントが参加した緊急時対応組織が形成され、平時は20名前後が詰めていたWHOリベリア事務所には、エボラ出血熱発生以降200名近い人々が活動するようになりました。

リベリアなどでは、エボラ治療ユニットがWHO支援のもとで設置され、さらに国境なき医師団、欧米各国の政府あるいは各種NGO支援によっても数多く設置されました。また、エボラ治療ユニットに勤務するWHOスタッフやコンサルタント等の活動環境を評価し、彼らの安全健康を確保しつつ最善の医療を実施するための、エボラ臨床ケア研修コースも設定されています。

この他、リベリアでトランジット・センター(治療終了後に戻る親類や養育者が特定されていない、孤児になってしまったエボラ回復者の子どもたちのためのセンター)が設置され活動しています。さらに、2015年1月には、シエラレオネに、最初のエボラ地域ケアセンターが設置されています。これは、エボラ出血熱に感染した患者を何百キロも離れた医療施設へ搬送するのではなく、その地域内で治療や住民のケアを行えるようにするための施設です。

図2.アフリカでの対エボラ出血熱医療現場。Aは東アフリカでの医療従事者による予行演習。Bは野外での診断。Cは国境でのサーモグラフィーによる診断(出典:WHO資料)   

アフリカでは、医療従事者を中心にエボラ出血熱対策となる防疫演習を繰り返しています(図2)。それでもエボラ出血熱の流行を防ぐことができない状態にあります。