社員がテロに巻き込まれた場合の広報
第6回目 何を守るべきかを明確に
日本リスクマネジャ-&コンサルタント協会副理事長/社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科教授/
広報コンサルタント
石川 慶子
石川 慶子
東京都生まれ。東京女子大学卒。参議院事務局勤務後、1987年より映像制作プロダクションにて、劇場映画やテレビ番組の制作に携わる。1995年から広報PR会社。2003年有限会社シンを設立。危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。企業・官公庁・非営利団体に対し、平時・緊急時の戦略的広報の立案やメディアトレーニング、危機管理マニュアル作成、広報人材育成、外見リスクマネジメント等のコンサルティングを提供。講演活動やマスメディアでのコメント多数。国交省整備局幹部研修、警察監察官研修10年以上実施。広報リスクマネジメント研究会主宰。2024年より社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科教授。
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2019年5月にリスク対策.comが開催した危機管理カンファレンスの基調講演テーマは「五輪開催に向けたリスクマネジメント」で、中でも「テロ対策」が大きく取り上げられていました。企業のグローバル化が進む中、テロリスクは確実に高まっていると感じます。そこで今回は、海外で社員がテロ事件に巻き込まれたケースについて、危機管理広報の在り方を考えてみることにしました。日本人が巻き込まれた歴史的に有名な事件としては、在ペルー日本大使公邸占拠事件、アルジェリア人質事件などがあります。ペルーでは複数の企業人が巻き込まれ、本社の広報対応がバラバラでしたが、アルジェリア事件での日揮株式会社の対応は適切でした。何が違ったのか振り返ってみましょう。
発言しない場合でも、その方針を公表する
アルジェリア人質事件を振り返ってみましょう。2013年1月16日、アルカイダ系の武装勢力がアルジェリア東部に位置する天然ガス精製プラントを襲撃しました。警備していたアルジェリア軍の兵士が応戦したものの、日本人10名を含む外国人41名とアルジェリア人150名が人質として拘束されました。この時拘束された日本人は全員が日揮の幹部を含む社員、協力会社社員です。
日揮本社の対応は迅速でした。翌17日には、「アルジェリアにおける建設現場駐在社員拘束の報道について」と題するニュースリリースを掲載し、「拘束された場所および人数などの詳細については、拘束された現場駐在員の安全を確保するため発言を差し控えさせていただきます」と明記しました。
途中から方針が変更されたのか、IR担当者がぶら下がり取材に応じた様子が報道されました。おそらくメディアからの猛烈な取材攻勢にスタッフが対応しきれなくなり、担当者が顔出しをしてスタッフの負担を軽減する方針に切り替えたのでしょう。このように対応に限界がある場合に、ぶら下がりで対応するという臨機応変さもありだろうと思います。
そして、社長による公式記者会見は、日本人社員の遺体を引き取った後に行われました。これも賢明は判断でした。
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