2016/05/24
講演録
TIEMS日本支部第11回パブリックカンファレンス

CBRNE災害に備えて
一般社団法人 日本災害医療ロジスティック協会理事
株式会社ノルメカエイシア代表取締役兼CEO
富山大学医学部大学院高度先進医学実践学
非常勤講師 千田良氏
1995年1月17日に阪神・淡路大震災が発生しましたが、当時は、災害医療というコンセプトはありませんでした。メディカルエンジニアであった私は、どうにかして災害医療を日本に根付かせられないかと考えていたところ、JETRO展示会でノルウェー王国の災害医療と出会い、以来日本国内で災害医療を医者の先生方と一緒に広める活動をしています。
さて、CBRNEと通常の災害の特徴を見てみると、自然災害では被災者の安全が最優先されます。しかし、CBRNE対策で最も重要なのはスタッフの安全であり、感染拡散の防止です。ここが自然災害対策とCBRNE対策の大きな違いとなります。米国、フランス、ノルウェーと日本を比較にしてみると、欧米3カ国とも病院には必ずCBRNE対応の防護服や除染装置などの備蓄があるのに比べ、日本にそのような施設があるのは8600施設のうち200施設とわずか2%にすぎません。日本はスタッフの安全を確保しているとはいい難い状況なのです。
CBRNEの中で最も恐ろしいのは何でしょうか。私見ですが、私はB(Bio=生物兵器)だと思っています。なぜなら、CRNEは地域が限定的で、被災地外に逃げれば被害を防ぐことができるからです。しかしBのパンデミックが発生してしまえば、我々には逃げる場所はありません。エボラ出血熱が、昨年世界中で猛威を振るいました。日本では水際対策をとることしかできませんでしたが、これではエボラを完全に防ぐことはできません。なぜなら潜伏期間があるからです。潜伏期間に日本に入ってきてしまえば、防ぎようがないのです。WHO(世界保健機構)は昨年12月に終息宣言を出しましたが、翌日撤回しました。世界はまだまだエボラ出血熱を克服できていないことがわかります。
最近のニュースで興味深い結果が出ています。新型インフルエンザが流行したら、医師は17%、看護婦においては実に31%が転職を考えていると回答しています。これは日本の病院に教育と装備が行き届いていないからです。
例えば、サリン事件が発生し、心肺停止患者が病院に運び込まれたとします。このときは除染が先でしょうか、救命処置が先でしょうか。回答は、どちらも正しいです。大事なのは「患者の状態」ではなく、「スタッフ自身の装備」だからです。もしあなたが個人防護服(PPE)を着用していれば、救命処置を行わなければいけない。もしPPEを装着していなければ、まず自分を守るために除染を行わなければいけない。日本ではこのような教育や装備が不足しています。
さて、個人でもできる取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。パンデミックが発生した時にファーストレスポンダーとなるには、やはり防護服のセットや用途に応じたマスク、避難用のパッケージセットや水のいらない簡易除染キットなどの備蓄が重要になります。町内会やマンションなどの共助の場面では、近年多目的テントが注目されています。これは簡易宿泊施設や診療所となるもの。例えば災害時にマンションのエレベータが止まってしまえば、マンションの高層階に住む住民は一度地上に降りてしまったら上に戻るのは大変です。そのような場合に多目的テントがあれば、簡易宿泊所として地上で生活することができます。最近のマンションでは災害用スペースは建築基準法のなかで免税措置も講じられているため、広い場所を確保し、低層階で生活できるような工夫が必要でしょう。
最悪を想定し、災害に備える。そして、何も起こらないことが最大の幸福だ。災害に強い国、社会を作ることは、人命を救うだけでなく、経済的な損失を防ぐこともできるのです。最後に一言、「病気が人体を解剖し、災害が社会を解剖する」。
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