危険物質から身を守る方法

株式会社日本防災デザインCEO 熊丸由布治氏

「771」。これは何の数字でしょうか? 答えは、2013年度中に発生した危険物災害・事故の件数です。単純計算では、1日に2件の危険物関連事故が皆さんの周りで発生しています。これらの事故により、火災による事故で10人が亡くなり、負傷者60人が発生。44億1150万円という被害額が出ています。最近の国内の事例で、特に私の印象に残ったのが、2012年9月に発生した日本触媒姫路製作所のアクリル酸タンクの爆発事故です。アクリル酸を貯蔵する中間タンクが爆発し、若い職員がお亡くなりになりました。そのほかにも大阪排油再生プラント火災(2013年)、三菱マテリアルズ四日市工場第1プラント爆発火災(2014年)、町田マグネシウム工場火災(2014年)、茨城県の中学校で理科実験中に硫化水素発生(2015)など、危険物事故は非常に身近で発生していることが分かります。中央労働災害防止協会安全衛生情報センターのWebサイトを見ると、危険物災害についてもっと知ることができます。

海外の事例を見ますと、2005年1月にサウスカロライナ州グラニヴィルで列車事故が発生し、60トンの塩素ガスが流出しました。9人が死亡し、250人が曝露。5400人が2週間避難し、除染作業に9日かかりました。オクラホマ州立大学が出版している「消防業務エッセンシャルズ」という消防の教科書の第24章に、この過去事例が掲載されており、この事故から2つの教訓があると示されています。まず1つ目は、第1対応者には適切な個人用保護具(PPE)の装着が重要であることと、2つ目に、統合指揮体制(UC)を早期に確立し、救助隊 、消防隊 、周辺区域 の安全確保、除染活動の調整などを実施するための多機関連携の重要性が訴えられています。

では、今われわれに必要なものは何でしょうか。それは「教育・訓練」です。防災に対するリテラシーが、まだ日本には不足していると考えています。これから、私が米国で受けてきた教育をお話したいと思います。

災害対応能力基準の標準化では、アメリカのNFPA(全米防火協会)という非営利団体が最先端の取り組みを行っています。このなかで、危険物・大量破壊兵器のレスポンダー(対応要員)としての能力的適正基準を明確に定めています。NFPAは単にハードウェアの基準・企画を定めているだけでなく、人間の能力基準まで定めているのです。米国では「NFPA472」という定められた教育を受けた人間以外は危険物災害やテロ対策に出動してはいけないとはっきり規定されています。それぞれ階層が分かれており、最も初歩レベルはアウェアネス・レベル。次の段階が運用レベルのオペレーション・レベル。その上がテクニシャン・レベルで、専門技術部隊のレベルです。その上が現場指揮官という階層に分かれており、インシデント対応教育のスタンダードとして完成しています。2008年のNFPAの改 定から 、アウェアネス・レベルを民間人にも啓もう活動を開始することを明記しました。すでにアメリカでは民間人に教育が始まっています。

さて、米国で定義されているハズマット(危険物質)とは何か。向こうでは危険物質と大量破壊兵器をおなじカテゴリーでとらえています。ハズマットはどのように引き起こされるかというと、「人的ミス・機械不具合・容器の不具合・輸送中の事故・破壊行為やテロリズム」のどれかにカテゴライズされます。この要因を1つひとつ潰してゆくのです。

さて、アウェアネス・レベルとは誰になるかということですが、これは第一発見者、第一現着者になります。例えば地下鉄サリン事件で言えば、乗り合わせた乗客、次は駅員と言う順番になりますが、そういう方々にアウェアネス・レベルの教育が必要になります。救護活動ももちろんですが、最も大事な部分は自分自身の防護活動を実践することなのです。