2016/05/20
講演録
TIEMS日本支部第9回パブリックカンファレンス
CBRNレジリエンスの構築を目指して
米国科学アカデミー
Lauren Alexander Augustine博士
CBRNレジリエンスについて、まず 4つの結論からお話しましょう。1.CBRNというイベントは非常に珍しい。発生する頻度は低いが、発生すると壊滅的な被害をもたらす。2. 特性としてはローカルで発生するが、インパクトは国際的に他国へ伝わるほどのものになる。3. 好材料としては、これまでの危機管理を化学や生物学などと組み合わせ、良い戦略がとれる可能性があること。4.国際的なパートナーが共同することで、レジリエンスが可能になる、ということです。私が所属し ている米国科学アカデミーの計画で、国際パートナー間の認識とコミュニケーション、コーディネーションを向上させるためのプログラムを開始しています。考えられるリスクに対し、レジリエンスを向上させるためには、多国間で国際的に協働して対応訓練を設計し、実施しなければいけません。全米科学アカデミーでは、CBRNに対してのレジリエンスを高めることは、世界中のレジリエンスを高めることだと考えています。
さて、はじめに問題を提起します。レジリエンスとはどのような意味でしょうか。レジリエンスとは、そのコミュニティはどれだけ災害に対して備えているか、実際に災害に対して持ちこたえ、インパクトを吸収で きるか。そして復旧・復興
し、次に備えて適応力を持つということです。CBRNという定義は科学的、生物学的、核兵器のような災害ですが、それらは日本の自然災害が原因になることもあります。原発事故や不注意な化学薬品などの流出事件、テロリストが行う意図的な流出もあり得ます。
次に、なぜローカルで発生するイベントが国際的、世界規模のイベントに拡大するかということです。2011年に発生した東日本大震災では、さまざまな国から人道支援がきました。それは、人道支援が現在の世界共通の価値観だからです。特に原発災害のような流出事件はグローバルな補償問題になります。このように世界経済にも影響を及ぼしますが、実は国際間での協働は最大限に生かされていないケースが多いです。相互のコミュニケーション、コーディネーションが問題になります。コミュニケーション不足の間にも犠牲者は増えていきますので、私たちは国際コーディネーションのためのメカニズムを向上していかなければいけません。どのようなメカニズムかというと、例えば日本と米国など政府間のメカニズム、人道支援団体などとの協力協定。民間企業にも相応に利害関係があるので企業にも大きな役割があります。それぞれの災害に特化したニーズがあり、そ
れぞれの災害に特化したメカニズムや対応が必要です。このさまざまなコミュニティの相互的運用性を向上するには、多国間の訓練などを実施する必要があります。
2つ目は、グローバルな視点での災害対応についてです。例えば、3.11の時には111カ国が日本に対して人道支援を行いました。ハリケーン・カトリーナの時には100カ国以上の国がアメリカに対して人道支援を行いました。自然災害への対応は、CBRNと比較するとやり易いと思います。CBRNの対応は特別な技術が必要です。どこにCBRNに必要な特別な能力があるかというと、それは軍隊です。日本とロシア、そしてNATO(北太平洋条約機構)やそのパートナーであるアルゼンチン、インド、中国、そして国連です。
私たちは日本から学ぶことは多いと思っています。CBRNの技術からいうと、日本から学ぶことはたくさんあります。そして、日本は世界のなかで最も人道支援に寄付する国であり、自然災害対応の技術や能力も優れています。このような国から、私たちは多くのことを学ばなければいけません。私たちは、1つのパートナーシップを提案します。それは、米国科学アカデミーと日本が、国際パートナーが 参加できるCBRN訓練を設計し、それを日本で行うという提案です。国際的な協力体制を作り、CBRNに対するレジリエンシーを向上させていきたいと考えています。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
パリ2024のテロ対策期間中の計画を阻止した点では成功
2024年最大のイベントだったパリオリンピック。ロシアのウクライナ侵略や激化する中東情勢など、世界的に不安定な時期での開催だった。パリ大会のテロ対策は成功だったのか、危機管理が専門で日本大学危機管理学部教授である福田充氏とともにパリオリンピックを振り返った。
2024/11/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/26
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方