6月17日に京都大学東京オフィス(品川)で行われたパブリックカンファレンス

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月20日)

TIEMS(国際危機管理学会)日本支部(代表理事:京都大学防災研究所教授の林春男氏)は2015年6月17日、「あなたのまちの危険物質を考える~テロだけではないCBRN(シーバーン)リスク~」をテーマに、第9回パブリックカンファレンスを都内で開催した。

講演を行ったのは、日本防災デザインCEO(元在日米陸軍統合消防本部次長)の熊丸由布治氏、防衛医科大学校免疫微生物学講座准教授の木下学氏、米国科学アカデミーのLauren Alexander Augustine氏。

熊丸氏は、「危険物質から身を守る方法」と題し、NFPA(全米防火協会)が教 育する入門レベル( アウェアネス・レベル)の危険物質(ハズマット)対応について解説した。木下氏は、CBRNとはどのようなものかについての基本的な解説を行った後、バイオテロ、化学剤テロなどの今後の可能性について探った。Lauren氏は、CBRNに対するレジリエンスを向上させるための国際間連携の必要性を訴えた。

パネルディスカッションの様子

続いて、熊丸氏、木下氏、Lauren氏に加えて京都大学防災研究所教授の林春男氏、新潟大学危機管理室教授の田村圭子氏、名古屋工業大学教授の渡辺研司氏、特別ゲストとして、現在は重松製作所主任研究員で、元陸上自衛隊化学学校副校長の濱田昌彦をパネリストに迎え、同テーマでパネルディスカッションを行った。コーディネーターは京都大学防災研究所教授の牧紀夫氏。

熊丸氏は冒頭「CBRNも災害対応も初めから分けて考えない方が良い 。ICS(イ ンシデント・コマンド・システム)はオールハザードに対応できる。まずは共通事項を洗い出し、それぞれにアプローチしていくことで適切な対応をとることができるのではないか」と、インシデント対応の標準化について話した。

濱田氏は「全体の8割は共通化できると思うが、CBRNE対応において、検知、防護、除染、救護などの分野があり、例えば検知ひとつとっても化学兵器と生物兵器では違う。オールハザードに対応できる部分と、そうでない部分をしっかり分け、何が違うか訓練のなかで確認していった方が良い」と話した。

Lauren氏は「CBRNはそれぞれ専門的な分野なので、専門的な技術者が必要。ただ、これからはCBRNに対しては1つの国だけでなく、さまざまな国が国際的に連携して対応しなければいけない。ローカルな専門技術が、どうすれば国際的な協働枠組みにまで適用できるかを、訓練などを通じて確認していなければいけない」とCBRN対策における国際的な連携の必要性を訴えた。

田村氏は「レジリエンスの向上には、CBRNEの専門家の先生だけでは難しいと思う。しかし、その分野への自分の知識は少ない。どこまでCBRNEについて学んでいくのかがこれからの自分の課題だ」と話した。

木下氏は「Lauren氏の考えに賛成だ。実は政府間で取り組みは進めているが、例えば核への対策に関しては完全に非公開で進められていて、行き詰っている。このように政府から独立したところで、各国がCBRNE対策について連携するのは非常に重要なのでは」と語った。

林氏は「これまで、われわれは主に自然災害への対応を追求しており、CBRNEはほかの専門家がやってくれると漠然と考えていた。これからは広く危機管理対応のなかでCBRNEをとらえ、各国との連携も視野に入れながら、虚心坦懐に多くの人の意見を聞いていきたい」と今後のTIEMSの方向性を示した。