『灯りが消える(Lights Out)』という本で著者のテッド・コッペル氏はアメリカの高圧送電線網の重大な途絶はありうるというよりは、ありそうなのだと警告している。もし起きれば9.11はピクニックであったと思えるような大災害となるであろう。

「停電が何日間ではなく、何週間もあるいは何ヵ月間も続くことを想像したまえ
いくつもの州の数千万人という人が影響を受ける
上水も下水も流れない
冷蔵することもできない、光もない
食物と医薬品の供給は減少する
我々が依存している装置は動かなくなる
銀行は機能せず、略奪が横行する
法と秩序はかつてないほどの試練にさらされている
高層ビルの屋上の水槽は2~3日は水を出す
これを使い切れば、蛇口は乾き、トイレに水は流れない
緊急時のボトルウォーターの供給は飲用以外に使うにはあまりに乏しい
供給を補充するところはどこにもない
人間の出すゴミが数日のうちに危機的な問題となる」


―テッド・コッペル『灯りが消えるーサイバー攻撃、備えのない国、災害後の生存』

 

電力へのリスク 

電力システムの脆弱性は人間が作り出したものだという人がいる。高度に規制された産業を緩和したのが問題だということである。話は単純であり全国高圧送電線網自体から始まる。
我々の素晴らしい全国高圧送電線網には3つの役割がある。第一は電気を作ることである。これを発電という。第二は、作られた場所から人の住む場所へ電気を移動させることである。これが送電である。第三に、電気は各戸のコンセントまで届かなければならない。これが配電である。かつては一つの会社がこの3つのことをしていた。しかし規制緩和と民営化の波が電力産業にも及び、過去20年間に両者が相まってこの3つの業態をばらばらにした。
昔は停電すればそれを元に戻すのは電力会社の仕事であった。今はなるべく安い料金の会社を探して契約する人が多い。しかしその会社もまた別の会社から電気を買っているのである。停電のときは、あなたが契約した会社は肩をすくめてサプライチェーンの上流にいる送電業者や発電業者を名指しする。その結果、電気代は低廉になったが、暗闇に取り残されるリスクはうなぎのぼりに高まる。
もう一つは、全国高圧送電線網を構成しているコンピューター系と人間系という異なるシステム間の連携の問題である。世界最悪の停電の2つである2003年の北東部大停電と同年のイタリアと近隣諸国の大停電はコミュニケーションの断絶が原因であった。両方合わせて1億人以上の人が影響を受けた。