火災の煙成分を分解してみよう

では一体、煙の何が人を死に至らしめるのでしょうか。また、そんな危険な煙を防ぐ手立てはあるのでしょうか。
  
まずは、火災の煙(燃焼生成物)の正体を大まかに分類してみましょう。

(1)水蒸気(火災の初期や消火放水後の白煙)
(2)煤(=ハイドロカーボン、不完全燃焼により大量に発生する、黒煙)
(3)塵、ほこりなどの粉じん
(4)有毒ガス


(1)水蒸気は、それ自体には毒性は有りません。しかし、やかんでお湯を沸かした時などの水蒸気と違い、火災現場の消火放水によって発生する水蒸気(白煙)には、不純物が多く含まれています。また、高温であれば吸入とほぼ同時に気道に火傷(やけど)を負います。温度80℃以上では呼吸できなくなり、窒息(死)する恐れがあります。

ちなみに、一般的なサウナ(ドライ)は100℃でも呼吸できますが、ミストサウナ(蒸気サウナ)では70℃弱が限界です。私が足繁く通う銭湯にある蒸気サウナで実体験したところ、70℃で呼吸が大変困難となりました(JR小岩駅から徒歩10分【軟水風呂 友の湯】https://www.tomonoyu.tokyo/)。

また通常のサウナ室内は空気の流れがほとんどありませんが、火災現場では強い気流が発生しますので、熱量(cal)は数倍に跳ね上がります。

(2)煤(すす)や(3)大量の塵(ちり)ほこりは、肺を詰まらせ、窒息の危険を引き起こします。

(2)(3)はすべて0.2~1.5μm(マイクロメートル)程度の目に見える大きさの粒子です。大量に発生した成分に光が当たると小さいものは白煙に、大きいものは光を遮り黒い煙に見えます。

これらの大きさの粒子から呼吸を守る方法は2通りあります。1つ目は、汚染された外気を遮断して綺麗な空気を供給する方法(空気呼吸器)。2つ目は、有毒な粒子を物理的に捕捉するフィルターを通して呼吸をする方法(防塵マスク)です。N95クラスのフィルターマスクでも十分に効果はありますし、防塵マスクが調達できなければ、ガーゼ・ハンカチやタオルで、ある程度代用できます。ただし後述するように、上記のマスクや代用の布生地類でも、有毒ガスは通過してしまいます。

N95フィルターマスク(画像提供:熊谷氏)


ちなみに、タオルなどざっくり編んだ布の場合は、一度水に濡らしてからきつく絞ると、煤状の大きな粒子を捕捉しやすくなります。このときに気をつけたいのは、ハンカチ・ガーゼなど細い繊維で目の詰まった布は、水に濡らさないということです。水に濡らすと繊維の目に水膜が生じ、通気ができなくなりますので、窒息のリスクが上がります。

さて、上記(1)~(3)の生成物だけならそれほど怖くはないのですが、一番致死率が高いのが、(4)の有毒ガスです。