白い煙が立ち込める戸建住宅の火災現場(出典:写真AC)

本連載「防災オヤジーズ」も、今回で5回目となります。
これまで過去数回にわたり、火災時の初期消火の必要性を解説してきました。

まとめると、火災に関しては以下の2つのことが言えそうです。

1.大規模災害時には公設消防隊は速やかに対応できないので、災害現場にいる人々が対応せざるを得ない。

2.自然災害(津波、洪水、火山噴火、豪雨等々)は人間の力ではコントロールできないが、唯一火災だけは人間が対処して制圧できる。


今回は、火災時に人の命に最も影響する「煙」への対処について考えていきましょう。

あらゆる火災死が煙に関係している

夜間、住宅街の一角にある民家から出火し、その家に住む家族全員が焼死する、といった痛ましい事故は現代でも多く発生しています。一言で「焼死」といっても、「炎で焼ける」「熱風で焼ける」「煙で窒息する」「煙で気道熱傷を負う」と細かく分類でき、またはそれらが複合的に襲ってくる、など様々なケースが存在します。しかし、実際の火災現場で焼死と判断された事例のうち、その大部分が煙が原因になっていることはご存知でしたか?

火災による死因別死者発生状況の推移(出典:総務省消防庁HP http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h29/h29/html/shiryo1-1-18.html

上のグラフをご覧ください。これは「火災による死因別死者発生状況の推移」です。過去5年間、死因はいずれも「一酸化炭素中毒・窒息」と「火傷」が2大要因であることがわかります。

一軒家で火災が発生するとほぼ全焼となり、その後の検死ではほとんど焼死になります。「火傷」の死因ですが、有毒ガスで動けなくなり(呼吸はしている)、この状態で炎で焼死したものは、すべて「火傷」による焼死扱いとなります。「一酸化炭素中毒・窒息」は火傷の跡もなく死亡しているご遺体です。つまり、火災による死因は、ほとんどが煙による中毒死なのです。

火災によって人はどのように死傷するのか。もう少し詳しく過程を検証すると、火災の煙がいかに危険性の高いものかがよくわかります。

1.炎による死傷

着衣着火は代表的な例です。爆発による瞬間的な爆炎で死傷することもあります。ただ、こうした場合でも、火災の炎が直接原因で死亡することはなく、実は「煙の吸引」が死因であることが多いのです。

例えば爆発のように、室内で瞬間的に炎が上がるときは、周りの空気中の酸素を一気に消費するため、瞬間的に現場が酸素欠乏状態となり、気を失います。酸欠で落ちる状態です。倒れたままで動いてませんが、その間にも呼吸はしているので、その後に大量の煙が発生すると、それを吸い続け、やがて死に至ります。

■新幹線焼身自殺事件 (死亡された被害者女性の方の例)  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E9%81%93%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A%E7%81%AB%E7%81%BD%E4%BA%8B%E4%BB%B6

■名古屋立てこもり爆破事件(被害者の警察官の方の例)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E7%AB%8B%E3%81%A6%E3%81%93%E3%82%82%E3%82%8A%E6%94%BE%E7%81%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

2.火災の熱による死傷

熱には大きく2種類があります。放射熱(輻射熱)と熱気流です。
放射熱は光と同じように直進します。強力な白熱電球を想像してください。直接近づけば熱さを感じますが、遮蔽物を間に入れると熱さは和らぎます。ですから、鏡のような反射素材である程度の熱は跳ね返すことができます。

熱気流は強力なドライヤーで熱風を出している状態と想像してください。
ただし、決まった一点に熱風を吹き付けるのとは違い、火災時に発生する熱気流は大型のオーブンに閉じ込められたような大量の風量です。そして、それらは風ですので遮蔽物を回り込んできます。

重要なのは、熱の怖さは「温度(℃)」ではなく、「総熱量(cal)」で被災の大きさが決まるということです。1000℃のガスライターの火が10秒間肌に触れても、その周辺は火傷を負いますが死ぬことはありません。しかし、200℃の熱風を10秒間全身に浴びれば人間は死に至ります。これは、熱風により身体の気道・肺部分が焼けただれ、呼吸できなくなることで、窒息するためです。

3.火災の煙による死傷

これまでみてきたように、火災時は、火傷といっても、炎や熱で全身が焼けるというよりも、煙が運ぶ炎(および有毒ガス)や熱によって気道や肺が火傷をすることで、窒息死していることが多いことがわかります。一方で多いのは、煙に含まれる有毒ガスを吸引し、酸欠などにより窒息死することです。つまり火災現場では、煙の炎・熱か有毒ガスかにより、窒息で死亡することが圧倒的に多いのです。さらに言えば、初期消火の不奏功のほとんどは、煙が大きな要因となっています。