2018/12/18
防災オヤジーズくま隊長の「知らないとキケンな知識」

有毒ガスを回避する備えとは?
こうした恐ろしい有毒ガスから回避する方法はあるのでしょうか。
ある程度の対処方法としては防毒・防煙マスクがあります。ただしこのマスクのもつ性能によって、対応できる火災現場が限られます。十分な性能を持つマスクが求められます。
例えば、一軒家の1階で火災が発生して2階の寝室で寝ている状況を見てみましょう。1階で発生した火災は徐々に炎が大きくなり、煙が充満して濃い黒色の煙がたまってきます。室内がある程度密封していると不完全燃焼状態となり、有毒ガスを含む黒煙が急激に増加します。この相乗作用で1階の火災室内は酸素が急減に消費され酸欠状態となります、これを「外気酸欠」と呼びます。この状態になりますと人はほぼ仮死状態になります。
2階寝室をみてみましょう。1階で発生した大量の煙が、ドアの隙間などを通過して階段室を上昇し、さらに寝室のドアの隙間から寝室へ侵入します。この時黒煙の煤はまだ浸入できるほどの量及び圧力に達していませんが、大量に発生した一酸化炭素はドアの隙間から寝室へ侵入します。寝ている人は臭いも無い一酸化炭素を吸い続けて中毒症状となります。気が付いた時には体が麻痺して自由に動けません。
その後に黒煙も隙間から入り始めます。この時の寝室内にはまだ十分に酸素があるのですが、一酸化炭素の影響で体内に酸素が取り入れられなくなり、結果、酸欠を起こします。これが「体内酸欠」です。
同じ酸欠状態でも、「外気酸欠」か「体内酸欠」かによって対処方法が変わります。大気中の酸素濃度は約21%。これに対し人体に有害な一酸化炭素濃度は0.05%(500ppm)以上とされています。火災で一酸化炭素が流入充満したとしても、火点近くならまだしも、室内全体の酸素濃度が急激に下がることはありません。火災の室内でも、酸素20%、一酸化炭素0.2%(2000ppm)なんて濃度があり得ます。
こうした室内の酸素濃度が十分ある場合であれば、「体内酸欠」に集中して対処すればよいことになります。一酸化炭素は物理的なフィルターで捕捉できませんし、活性炭のような吸着剤でも除去できません。一酸化炭素を除毒する防毒・防煙マスクを着用していれば十分な呼吸を確保できます。「外気酸欠」の場合は、防毒防煙マスクでも対処できないため、空気呼吸器(自給式)をするしかありません。
ここで「除毒」について。一酸化炭素を除毒するには、マスクに触媒の機構が求められます。最近防煙マスクあるいは防煙フードと称して販売している商品をみると、このフィルターではまず除毒できない、と玄人には見た目で判断つきます。そういう場合は、取説注意書を確認すると、大抵とても小さな文字で「一酸化炭素ガスは除去できません」と書いてあります。
フィルター部分は活性炭をまぶしたフィルターで、さもいろいろな有毒ガスが除去できるような表示でした。煤や塵など粒子の除去は可能でしょうが、それは数百円程度のN95マスクでも十分に除去できますから、8000円前後で販売しているこの商品はいったい何だ!と思います。一酸化炭素も除去できないマスクに防煙マスクを名乗る資格無し!!です。皆さんも購入するときは十分に気を付けましょうね。
火災現場で短時間に人の命を奪う、一酸化炭素の恐ろしさについて、実は先日某テレビ局の企画で実験に参加し、実体験をさせていただきました。(またまた、死にそうでした)。詳細は来年1月5日(予定)の放送後に解説します。すごいですよ!
その他、一酸化炭素のほかにも、有毒ガスがたくさんありましたね。これ以降は次回解説いたします。乞うご期待ください!
【参考】
「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/
(了)
防災オヤジーズくま隊長の「知らないとキケンな知識」の他の記事
- 第7回 相次ぐ建設現場における火災
- 第6回 なぜ戸建住宅火災で死亡するのか
- 第5回 火災による死亡原因のほとんどは「煙」にあった
- 第4回 知ってましたか?消火栓は誰でも使えます!
- 第3回 消火器で火災は消せません!
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方