建物所有者が設置する屋内消火栓。火元にいる人が誰でも利用できる(写真出典:Photo AC)


発災時に誰でも使える「消火栓」

前回(連載第3回)は、いかに消火器では実際の火災が消せないかを解説しました。ではどうしたら初期消火を成功させることができるのでしょうか。
 
皆さんが住んでるマンション、通勤途中の駅、勤務先のビル、買い物に行くスーパー高速道路のトンネル内など注意を向けるといたるところに消火栓があります。大きな倉庫や工場などの敷地内、道路を見ると黄色い四角で囲まれたマンホール蓋に「消火栓」と書かれています。

結構身の回りに消火栓はあるものです。
この消火栓は発災時には誰が使っても良いのです。
「え!!消防隊が使うもので触ってはいけないと思ってた」
とほとんどの人が思いこんでいます。
 
いいえ、誰もが使えるようにしておかなくてはいけないのです。初期消火を成功させ被害を抑えてください。でもAED(自動体外式除細動器)と同じように、繰り返し訓練をして使用方法や安全管理、2次災害の防止方法などを、身につけていなければダメです。

通常時の火災発生では、119番通報すれば、最寄りの消防署職員が緊急車両で駆けつけ消火活動を行います。マンションやオフィスビルであれば施設で一定の訓練を受けた居住者・従業員でつくる「自衛消防隊」や防災担当者がいち早く現場に駆けつけ初期消火をすることになっています。

でも実際は、大規模災害発生で同時多発的にいろいろな事故が発生すれば、一部の担当者だけでは対応しきれません。普段から誰でも消火栓の操作訓練をしていれば、拡大していく火災を止められます。そこにある危機はそこにいる人が対応して抑えましょう。

建物の初期消火は自主防災で

消火栓は私設と公設の2種類に分かれます。
私設の消火栓は、消防法等により設置が義務付けられ、建物所有者の負担で設置される消防用設備です。公設の消火栓は、消火水利の一つとして市町村によって設置され、上水道管に連結して道路上に100~200m間隔で配置されています。

「私設消火栓」は、建物内に設置された「屋内消火栓」と、倉庫・工場などの敷地内に設置された「屋外消火栓」があります。このうち「屋内消火栓」は、「1号消火栓」「易操作性1号消火栓」「2号消火栓」「広範囲2号消火栓」の4つの形式があります。ご自分が住むマンションや勤務先ビルなど、使用する可能性がある消火栓がどの種類か、確認しておきましょう。

1960年代、建物内に設置する消火栓として最も早く採用され、現在最も普及しているのが「1号消火栓」です。放水量130L(リットル)/分と高く、高い消火能力が求められる工場・倉庫をふくめ全ての用途の建物利用可能ですが、操作に2人以上必要で、従来型の平ホースを使っているため、全てのホースを引き出さないと利用できない、など不便さがありました。

その後1987年に「2号消火栓」、1997年に「易操作性1号消火栓」が開発されました。「2号消火栓」は、放水量60L/分と小型で、工場や倉庫では利用できませんが、旅館、ホテル、社会福祉施設、病院などの就寝施設に利用でき、1人操作が可能です。「易操作性1号消火栓」は、1号同等の放水量130L/分で全ての建物に利用可能で1人操作可能なものです。

こうした変遷を経て2013年に誕生したのが最新型の「広範囲型2号消火栓」です。1号消火栓と同等の配置間隔・消火力を持ちながら、女性1人でも操作できる操作性の良さを両立しています。また1号消火栓よりもひと回り小さいことで「1号消火栓」のノズルとホースを取り換えるだけで「広範囲2号消火栓」に改修できる設備も市販され、積極的に改修が推進されています。

「屋外消火栓」は、建物周囲に設置される私設消火栓の一つです。基本的な仕組みは屋内1号消火栓と同じですが、外から建物に向かって放水するため放水量は350L/分と、1号消火栓の3倍弱です。ホースの太さも呼称65ミリ径と太くなり、取扱いはかなりの練度が必要です。