ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
火災防御のタイムラインについて。Time is Life (時は命なり)
火災防御は時間との闘い
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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火災防御は時間との闘いだ。先着隊の初動が早ければ早いほど、救命率は上がる。要救助者が怪我をしていれば悪化を予防し、被災していない財産を守ることが出来る。
だが、火災防御力を上げるための訓練施設は限られている。昔のように古タイヤや廃材を訓練棟内で燃やして、黒煙を出すことも出来ない。スモークマシンによる白い煙と水は出せたとしても、実火災の熱や濃煙を体験できる施設は少ない。
日本の大多数を占める中小規模消防本部での共通の悩みである、人員不足下での火災防御活動では、何がマストで何がベターなのだろうか。
消防士であるならば、国民の生命、身体、生活を守るために、日々、少しでも現場で活かせるような実践的スキルを磨く必要がある。ファイアーファイターとしての強くて柔軟な気持ちを持ち続けることが大切である。
Firefighter Tribute 2018 - What i live for(出典:Youtube)
先日都内で、「世界で活躍した消防のプロが教える正しい火災戦術をとるためのワークショップ」【第2回/市街地編〜火災戦術の基本〜】を日本防災デザインCTO(元在日米陸軍統合消防本部次長)の熊丸由布治氏と一緒に、計6時間30分に及ぶワークショップを行った。
参加者は日本各地から集まった、意識と士気の高い消防士達30数名。実際に地図、無線器、各種消防車両(ミニカー)を使いながら、活動隊と火災防御のタイムラインを使った評価班に分かれ、シナリオに応じて、火災防御や人命救助、延焼防止、警戒線の設定など、1つのグループの中で、指揮隊、ポンプ車隊(先着隊と後着隊)、救助隊、救急隊などに担当が分かれて、入電から引き上げまでを無線交信しながら行った。
感動したのは、異なる消防本部で現場活動する参加者達の混合隊であっても、とてもスムーズに現場対応が成されていて、無駄のない活動を見せてくれたこと。
撮影禁止だったため、写真や映像をお見せできないのが残念だが、どのグループもそれぞれにグループの特長を生かして、その実力を見せてくれた。
また、今回の訓練手法がひとつの火災防御訓練の手法として、全国に通用するのでは?という手応えも感じた。
Firefighter Motivation 2018(出典:Youtube)
火災防御のタイムライン資料と使い方
まずは、下記のリンクにあるエクセルファイルをダウンロードしていただきたい。
■火災防御のタイムライン資料
https://irescue.jp/XLSX/TimeLine.xlsx
エクセルシートは左から、原本、指揮隊、先着隊、後着隊、救助隊、救急隊に分かれており、原本のシートは、はしご車隊、特殊車隊など新しいタイムラインを作るときにコピーして用いる。
各隊のシートは、それぞれの火災防御活動上のマストを小分けにし、リストにして、より現場で活用出来る標準的なタイムラインとして共通認識されるように作成したつもりである。
もちろん実際の火災現場は様々なので、このタイムライン通りに行くことは想定していないが、活動事故の予防、被災者への活動理由などの説明、隊への訓練育成指導、消防学校での火災防御訓練における教養資料として、また訓練評価用としても活用していただくことを目的にしている。
評価方法は加点法で、無線交信の発話内容で活動隊の動きを把握する。訓練評価上、発話がなかった活動は、活動を行っていないと見なされる。
また、活動グループ以外のグループの1つは、ホワイトボードに活動経緯のクロノロも書き出し、これも無線を聞いて発話した活動だけをその時点のタイムラインに書き込む。クロノロを見て、評価することもできる。
火災防御のタイムライン訓練に必要なものと流れ
1、道具
・地図(出来れば航空地図)1mx2mあると使いやすい。
・各種消防車両や関係車両のミニカー。
・火点、鎮火、要救助者、風向き、方位を示すカード等。
・クロノロ用模造紙かホワイトボード
・無線機(特定小型省電力無線機でも可)。
※無線機は、無ければないでもいいが、臨場感が大きく違う。
・テーブル(2つ)
・ビデオ
2、参加者数
・活動隊:指揮隊、先着隊、後着隊、救助隊、救急隊の各車両に最低1名。
・評価者:上記のそれぞれに1名ずつ。階級は関係ない。
3、シナリオ
・市街地、木造密集地域、化学コンビナート、高層マンション等自由。
・親シナリオには、出動指令と同じ、火災概要を準備。
・子シナリオは、新たな要救助者を発見したり、ペットが逃げ遅れていたり、モルタル壁の倒壊、活動中の消防士が倒れるなどの付加想定を準備しておく。
4、訓練時間
・シナリオを複雑にしてしまうと時間が掛かりすぎて集中力がなくなりやすいため、長くても20分。理想は15分程度で十分な訓練が行える。
5、ワークショップの流れ
・グループを結成し、各隊の担当者を決める。複数回行う場合は交代する。
・指令センター役が出動指令を出す。
・仮定した消防署から一斉に出動する。
・現場途上の先着隊が黒煙を認めるなどの一報を入れ、クロノロ担当は記録する。
・先着隊は現場状況を把握し、各隊へ伝達し、指揮隊は活動方針を決める。
など、無線による発話内容とタイミングがいかに大事かがわかるが、交信を重ねる毎に、自然に各参加者の頭の中にマトリックスのようなイメージ空間が生まれ、実際に活動しているような感覚でワークを進めることが出来る。
応用と編集次第では、化学コンビナートや原子力施設の自衛消防隊、日本全国の消防団員にも活用いただけるのではないかと思う。
あくまでも、訓練手法の一例であるが、自分たちの消防力に合わせて、このエクセルシートを書き換えながら、より実際の火災防御に即した内容にしていただけたらと思う。
いずれは、交通事故、水難事故、山岳救助、災害対策本部訓練、自然災害における土砂の生き埋めなどのタイムラインも作れるのかもしれない。
火災防御におけるタイムラインを先読みし、活動中は、常に火災に有利な防御活動を継続しながら、安全&スピーディーに制圧し、生命・身体・財産を守られるのかをコンセプトに繰り返し繰り返し、何度も訓練、及び、評価を行うことで、火災防御のタイムラインの内容が自然に身につき、現場に生かされ、さらなる火災防御力が向上することを期待する。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp
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