最悪シナリオでの一次産業は壊滅的ダメージを受けるだろう(Adobe Stock)

気候変動による2030年最悪のシナリオを描くこの連載。今回からは一次産業への影響を見ていく。農業、畜産へのダメージは深刻だ。

■気候変動の矢面に立つ一次産業

動植物や草木、昆虫などの自然資源に強く依存する農業や、畜産・林業・漁業などは、気候変動の影響をストレートに、そして最も早い段階で受ける業種である。

2030年の気候は、現在よりも夏が長く、冬が短い二季気候に移行する途上にあると考えた方がよい。しかも気温や気象の変化は極端になる。4月や11月でも気象条件によっては30℃を超える日が増えていくだろうし、夏場の日中の気温は軽く40℃を超え、それが断続的に何週間も続く。冬は短いとは言え、時おり異常な寒波が襲来してすべてを凍らせてしまうかもしれない。極端な気象は台風や竜巻、豪雨、洪水をも、より激しく変化させる。

ここでは主に、農業と畜産業にフォーカスして予測してみよう。結論から先に言えば、気候変動は日本の農業に大きな影響を及ぼす。生産計画や天候パターン、季節のサイクルなど多くの場面で影響を受けるだろう。気候変動が日本の農業や畜産に及ぼす悪影響を軽減するためには、効果的な適応戦略、持続可能な農業への投資、国際協力が不可欠だが、2030年時点でこのことに気づいても「時すでに遅し」である。

なぜなら、新たな気候に適応するための農作物の品種改良には8~10年はかかるが、気候変動の進行(悪化)のスピードはそれよりも早いからである。また、交配などを利用して家畜を気候のストレスに強い体にしていくには、やはり同じぐらいの期間を必要とするらしい。実際には多くの家畜が、順応するはるか以前の段階で死んでしまうかもしれない。

以下では、2030年に農業や畜産業が直面するさまざまなリスクを見ていこう。

■コストの増大と収穫量の減少

価格上昇が見込まれる肥料(Adobe Stock)

2030年代に農業経営を著しく阻害するリスクは「コストの増大」と「収穫量の減少」である。

「コストの増大」の要因としてまず考えられるのは、気候変動がもたらす自然災害による被害だ。豪雨の増加は冠水被害や土壌浸食のリスク増大につながる。その結果、耕作地や農業用ハウス、農作物が被害を受ける。長引く異常高温や強い日差しは作物の変形や変色、病気、枯死を拡大させる。

干ばつによる水不足は灌漑に影響を及ぼし、作物への水の供給を減少させる。こうした災害の損失を埋め、対策を講じるには相応の費用がかかり、経営を圧迫する。

また、生産コストの上昇もある。その1つが温室効果ガス対策の反動から来る輸入肥料の価格高騰。日本が大半を輸入に頼っている化学肥料は、畑に撒いたあと気化し、CO2の約310倍の温室効果のある亜酸化窒素ガスを発生させる。化石燃料と同様に化学肥料の使用が制限されることになれば、肥料の流通の不安定化や価格上昇につながる。肥料仕入価格の上昇は農家の生産コストを上昇させ、収益を圧迫する。

一方、「収穫量の減少」をもたらす最も大きな要因は、前述の気候災害に伴う直接的な損害(熱波や大雨、水不足など)であるが、間接的な要因としては、中長期的な気候パターンの変化への適応問題がある。降水パターンや気温、土壌条件が変動すると、作物に適した環境を整えて適期にタネをまいたり苗を植えたりする計画が立てにくくなる。何か月も続く夏季は多くの作物の生育を困難にする。農家は栽培カレンダーを調整し、変化する気候条件に適した作物や品種を選ばなくてはならない。

上に述べたような自然災害対策や、温室効果ガスを出さない生育・栽培方法、代替肥料の開発、気候パターンへの適応が思うように進まなければ、農業の衰退は避けられず、食の安全保障が脅かされる事態となるのである。